クリスマスイブの夜。カップルや家族連れで賑わう電車の中。僕はドア横のスペースにもたれて、ずっとそのツイートを眺めていた。
このアカウントの主は、たぶん、いや間違いなくヒカルだと思う。
ヒカルと別れてふた月くらいしたころだろうか。僕は衝動的にネットでヒカルの名前を検索してしまった。もう元には戻らない、終わったことだとわかっているのに。未練……なのだろうか。
案の定特に有名人でもないヒカルの情報は何もヒットしなかった。そこで止めておけばよかったのに、僕は名前の次に、ヒカルのメールアドレスのアカウント(@の前の文字列)でも検索をした。何かネット上のサービスを使っていた場合、これでヒットすることもあるらしい。ヒカルはメールアドレスをいくつか持っているので、僕の知っている限り全部のアカウントで検索をした。
すると、このツイッターユーザーが引っ掛かったのだ。“KM_Pisces0309”は、ヒカルがまだ学生だったころに使っていたメールのアカウントだ。
このユーザーがツイッターを始めたのは、僕とヒカルが別れた翌月だった。最初のツイートは〈先月、彼氏と別れた〉だった。
偶然の一致、とは思えない。
その後、ときどき投稿されたツイートからは、仕事のことでかなり追い込まれているだろうことが窺えた。
ネガティブなツイートにも、ポジティブなツイートにも、等しく悲痛さが滲んでいる。
小林さんに言われたことが頭を過った。
――でも、それじゃヒカルちゃん、例のやばそうな会社で働き続けるんだよね。それでいいのかな。
ヒカルと別れた直後、いろいろアドバイスしてもらったこともあるので、小林さんと飲みにいって、ヒカルと別れた顛末を報告した。彼女は驚きつつも、そう言ったのだ。
僕は、小林さんに釈然としない苛立ちを覚えた。だから言った。
――正直、仕事のことをごちゃごちゃ言うべきじゃなかったよ。
たぶんに小林さんを責めるような口調で。
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