――何それ。私が余計な入れ知恵したのが悪いってわけ。
小林さんはむっとした様子で僕を睨みつけてきた。
――別に、そういうわけじゃないけど。
と、視線を逸らした僕は、内心では、そういうわけだと思っていた。
もちろん、僕らが別れた最大の原因は、ヒカルの気持ちが僕から離れていたことだ。遅かれ早かれ同じ結果になっていたのだと思う。根本的に小林さんに責任があるわけじゃない。でも、別れを切り出されたのは、働き方を見直さないかと話をしているときだった。小林さんの「入れ知恵」が招いた結果と言えなくもない。
――私は、ヒカルちゃんが、私の旦那みたいになったら嫌だと思ったから。
それは、僕だってよくわかっている。でも、すっきり納得できるわけでもない。
微妙な雰囲気になり、その日はすぐに解散となった。以来、小林さんとは飲みにいっていない。会社でも事務的なやりとりをするだけだ。
少し前の関係に戻っただけかもしれないが、僕は恋人だけでなく、貴重な友人まで失ってしまったのかもしれない。
ともあれ、この“KM_Pisces0309”のツイートを見ていると、やはり心配になってくる。具体的なことが書かれていなくても、心身ともに疲れているのは伝わってくる。
例の島田という人とヒカルがどうなったのかはわからない。彼はヒカルの支えにはなっていないのだろうか。
“KM_Pisces0309”がヒカルだとしたら、これまでまったくやっていなかったツイッターを突然始めたのは何故か。一種のSOSを送っているんじゃないのか。誰もフォローせず、フォローもされず、ただ言葉を吐き出しているだけであっても。苦しんでいること、つらいことを、誰かに気づいて欲しいのではないか。
そんな想像を勝手にしてメッセージを送ろうかと思い、いつも踏みとどまる。
こんなふうに検索をしてツイッターアカウントを発見し、コンタクトをとるのはいかにもストーカー的だ。もしメッセージを送って〈気持ち悪い〉とか〈関わらないで〉とか、拒絶の言葉が返ってきたら、僕は二度と立ち直れなくなるかもしれない。
電車は目的地の新宿にたどり着いた。
電車を降り、階段を上がり、南口の改札を出ると、四角い柱のところに関口がいた。
関口はぼくを認めると、「よ、メリークリスマス」と手を上げた。
「メリークリスマス」
結局僕は、二年連続でクリスマスイブの夜を、この男と過ごすことになった。
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