前回までのあらすじ
「私」が全さんに再会したのは、父が亡くなった二十歳の夏だった。全さんの実家である廣瀬写真館の前で、「私」は全さんを追いかけてきた恋人に出会い、自分と父を捨て、男と逃げた母親のことを思い出していた。全さんと鶴岡にいる母親のもとへ行ったが、「私」の居場所がないことを改めて理解するだけだった。旅から帰ると、全さんと連絡が取れなくなり、「私」は不安を募らせる。そんなある日、街中で全さんを見つけて追ううち、車と接触事故を起こし「私」は病院に運ばれてしまう。その夜、全さんは突然「私」の足首を掴み、そして私たちは結ばれた。ところが、全さんはひと言もなく、突然「私」の前から姿を消してしまう。
恋で人は変わるだろうか。
そう問うと、里見はいつも「なんて言って欲しいわけ?」と鼻で笑った。意地悪な返答をするくせに去ろうとはせず、なにも言えずにいる私のそばで本のページをめくっていた。
季節が移ろう。図書館前の木々の葉がすっかり落ちて、息が白くなりだすと、里見は図書館ではなく私の家で読書をするようになった。こたつ布団にいつまでも半身を突っ込んで猫のように丸まっていた。「なんか食べる?」と訊かないと食べようとしない。面倒臭がりで一度こたつに入るとでたがらない里見とは鍋ばかりだった。鍋といっても、冷蔵庫にある食材を放り込んだだけのものだ。里見はうまいともまずいとも言わずに食べた。
ときどき菜月もやってきた。菜月は里見に謝罪したらしい。里見もそんな彼女を友人として受け入れていた。菜月の気持ちがまだ里見にあることを私は知っていたが、もう二人の関係には口を挟まないようにした。菜月も私と里見との友情を信じてくれていたから。
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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