- 2018.11.26
- インタビュー・対談
宮部みゆき 『昨日がなければ明日もない』&『希望荘』刊行記念インタビュー #1
「オール讀物」編集部
シリーズ累計300万部突破!
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
事件は小さいけれど、悩みは深い
──杉村は、不運にもよく事件に巻き込まれますが、失礼ながら探偵として何かが優れているという感じは受けません。
宮部 事件の被害には遭うんですけどね(笑)。作家で書評家の杉江松恋さんが、以前、解説で、「杉村には、その登場人物の本質を見抜くことはできない(しかし、後から読み返すと、その性質を示唆する客観描写を作者がきちんと挿入していることがわかる)」と書いてくださって、すごくうれしかった。頭の切れる私立探偵や刑事だったら、見逃さないような謎解きのヒントを、杉村はぼろぼろ見逃しているんです。杉村は、真相にまっすぐ辿りつける人ではない。優秀な探偵なら気づくはずの見落としもいっぱいしている人です。
──でも、怒濤のような「悪意」が押し寄せても、けして杉村自身は染まりません。
宮部 杉村は、警察のコネもない。だから、扱えるのは大事件ではなく、小さな家庭内の事件になります。直面するのは、社会的な「悪」とか、構造的な「悪」よりも、家庭内、友人関係、会社の中でのねじれてしまった人間関係から生まれた「悪意」。身近な「悪意」によってこじれてしまった関係を、杉村に解決させるのが一番自然な流れでした。
──『誰か』でも、社内報の編集者だった杉村が、「父が自転車にぶつかり、転倒して死んでしまった。その真相を突き止めたいので、本にして広めて欲しい」という若い女性の依頼を受けたことがはじまりでした。
宮部 『誰か』は、自転車事故にまつわる話という構成を決める前から、帯の文句が決まっていたんです。「事件は小さいけれど、悩みは深い」。ふだんは帯文を考えたり、提案することはないのですが、あのコピーは私が考えました。
こちらのインタビューが掲載されているオール讀物 11月号
2018年11月号 / 10月22日発売 / 定価980円(本体907円)
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