- 2018.11.27
- インタビュー・対談
宮部みゆき 『昨日がなければ明日もない』&『希望荘』刊行記念インタビュー #2
「オール讀物」編集部
シリーズ累計300万部突破!
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
宮部 今回もきっかけは、ものすごく小さい事件です。でも、杉村は探偵としての危機に立たされます。小説のなかでは、中編六本分の事件を経験してきて、「俺、私立探偵やれているじゃん」って思っている杉村を、痛い目に遭わせることにしました。
──杉村は、調査のためなら、苦もなくをつくような、探偵らしい世過ぎも身につけてきました。
宮部 そうそう。「私は親戚のものです」とか、平気な顔して嘘をついて、聞き込みに行けるようになりました。今回のモンスターペアレントとして描いた美姫についても、「私はもっと大変な人を扱ったことがあるから大丈夫ですよ」と杉村は、どこか軽く考えていた。
──たしかに『名もなき毒』のモンスター、原田いずみに比べたら、というのはありますね。
宮部 たぶん、美姫は、原田いずみとは違って、歳をとることによって、あるいはパートナーによって、変わることができる人だと思うんです。でも杉村が介入してしまったことによって、何かが崩れてしまった。今後も、杉村はこの事件を引きずっていくことになるはずです。それもあって、ラストで捜査一課の立科警部補に「あなたもしっかり頑張りなさい、探偵」って言わせました。今後、杉村が一人前の探偵になれるかどうか。ひとつの試練ですよね。
気になる今後の展開は?
──今回から登場した立科警部補は、一筋縄でいかない印象ですが、今後も登場してくるんでしょうか。
宮部 立科警部補は、次の作品でも出したいと考えています。杉村と立科警部補が、だんだん信頼関係を築いていく。でも、立科さんは、継続捜査担当なので、関わり方には工夫が必要になりますね。
──また、元義父でコンツェルンの会長の今多嘉親が入院するという話が、「昨日がなければ明日もない」に出て来ます。いずれ、杉村は再び、今多家と関わりそうな予感もします。
宮部 今多嘉親は、いろんな意味で杉村に影響を与えてきた人です。高齢だから、いつかは嘉親が亡くなるでしょう。娘の桃子は無邪気に「お父さん、一緒におじいちゃまに会いに行こう」って言ってくれるけど、元妻の菜穂子からは「あなたは来ないでくれ」って言われるかもしれない。その時に、もう一回、お別れのエピソードを書かなきゃいけないと思うんです。ただ杉村は、実の父親を亡くしているので、嘉親には長生きしてほしいと思っているんじゃないですかね。
──もし、嘉親が亡くなったら、その喪失感は、大きいでしょうね。
宮部 嘉親は、もう杉村を今多コンツェルンとは関わらせちゃいけないと思っている。たとえば、仕事を回してやるとかいうことは一切しないでしょう。
──いっぽうで、娘の桃子とは、ずっとやりとりがあります。メールは頻繁にやりとりしている様子が描かれます。
宮部 今後、できれば、一度、桃子を、杉村の住む家に来させようと思うんです。たとえば、桃子が、竹中家の三男のトニーに絵を習いに来たり、竹中家の子と仲良くなったり。ゆくゆくは杉村と二人で事件にあたるような話も書いてみたいですね。そこも「アルバート・サムスン」にならってですが(笑)。
宮部みゆき
1960年生まれ。東京・深川育ち。87年「我らが隣人の犯罪」でオール讀物推理小説新人賞を受賞しデビュー。以降、『龍は眠る』で日本推理作家協会賞(92年)、『本所深川ふしぎ草紙』で吉川英治文学新人賞(同年)、『火車』で山本周五郎賞(93年)、『蒲生邸事件』で日本SF大賞(97年)、『理由』で直木賞(99年)、『模倣犯』で毎日出版文化賞特別賞(2001年)、『名もなき毒』で吉川英治文学賞(07年)を受賞。
こちらのインタビューが掲載されているオール讀物 11月号
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