インタビューほか

田牧大和インタビュー「わけありの男と、孤独な娘の美しくも哀しい恋を描く」

藍千堂菓子噺シリーズ

『あなたのためなら』(田牧大和 著)

お糸を愛した彦三郎の正体?

 彦三郎は、お糸の自分への疑いも、お糸の覚悟も軽やかに受け止める。ただ肝心のお糸への恋心は、和歌を使ってはぐらかそうとする。彦三郎には、どうしてもお糸に自らの心裡を伝えられない「訳」があった。

「彦三郎は、お糸に自分の恋心を打ち明けられないことを、初めから承知しています。それでもお糸には分かって欲しい。それが、『ある和歌を知っているか?』という、思わせぶりな問いとなって表へ出ます。かなり込み入っていますね(笑)。
 お糸も、『百瀬屋』と従兄たちの板挟み、父との反目、幸次郎への報われない想い、複雑なものを幾つも抱えています。そんなややこしい二人が、『百瀬屋』を守る同志という、いわば大義名分を得て、束の間寄り添い合う。まっすぐに惹かれ合い、結ばれた晴太郎と佐菜とは、対照的な二人ですね」

 やがて、二人と「百瀬屋」をのみ込むように事件は起きる。
 彦三郎の正体、そして、彦三郎がとった驚きの行動を、お糸はどう受け止めたのか。
 
「昔から、物語には事件が起きて、謎があったほうが面白いと考えていましたから、今回も、お糸と『百瀬屋』を、過酷な事件に直面させてしまいました。
 従妹の危機を目の当たりにした、心優しい晴太郎と切れ者の幸次郎が、『百瀬屋』への屈託を抱えながら、どうふるまうのか。読者の皆様に、兄弟の『男前振り』を楽しんでいただければと思っています」

今も昔も変わらぬ菓子職人の想い

 今作も、期待通りに、魅力的な和菓子が登場する。「変わりわらび餅」や「白餡の金鍔」の描写も、食欲をそそる。

「先日、老舗『榮太樓總本鋪』の職人さんとお会いし、和菓子づくりを見学、試食させていただける機会があったのですが、職人さんのお話や鮮やかな技に夢中になっていると、『今、この瞬間が一番美味しいんです。ともかく先に、召し上がってみてください』と促されたんです(笑)。話より自分の技より、和菓子の美味しさを楽しんで欲しい。そんな職人さんの想いが伝わってきました。きっと晴太郎も同じことを言うだろうな、と、現代の職人さんと我らが晴太郎が重なった、嬉しい瞬間でした」

 自分たちが手掛けた菓子で、幾多の危機を乗り越えてきた晴太郎兄弟は、絶望の淵に突き落とされたお糸の笑顔を、取り戻せるか。


著者プロフィール

田牧大和(たまき・やまと)
1966年、東京都生まれ。明星大学人文学部英語英文学科卒業。2007年、小説現代長編新人賞を受賞し、『花合せ 濱次お役者双六』で作家デビュー。濱次シリーズ、からくりシリーズ、三悪人シリーズ、鯖猫長屋シリーズなど、シリーズ物も人気。「藍千堂菓子噺シリーズ」として、『甘いもんでもおひとつ』『晴れの日には』がある。

あなたのためなら田牧大和

定価:本体1,680円+税発売日:2019年01月24日

晴れの日には田牧大和

定価:本体760円+税発売日:2018年07月10日

甘いもんでもおひとつ田牧大和

定価:本体760円+税発売日:2016年05月10日


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