江戸・神田の小さな菓子屋を舞台に、心優しい菓子職人の兄・晴太郎と、商才に長けた弟・幸次郎らが活躍する「藍千堂」シリーズの最新刊『あなたのためなら』が刊行された。
著者の田牧大和さんはこう語る。
「江戸時代の砂糖は、薬種問屋が扱っていたくらい、とても貴重なものでしたから、長屋暮らしの人たちにとって、上菓子はそうそう口にできるものではありませんでした。
晴太郎は、『甘いものを食べて、人々に幸せになってもらいたい』という職人。なんとか、庶民と江戸菓子の橋渡し役を担おうとしているんです」
そんな晴太郎が上菓子司「藍千堂」の暖簾を出して六年。父の代からの職人・茂市と、名番頭の弟・幸次郎らの助けも借りつつ、菓子が「美味い」「美しい」「珍しい」と評されるようになり、贔屓の客も増えてきた。
前作『晴れの日には』では晴太郎に身内が増えた。嫁・佐菜には、娘のさちがおり、男所帯の「藍千堂」が華やかになった。
晴太郎の悩みは、我が子同様に愛しているさちが、「お父っつあん」と呼んでくれない事だった。
「晴太郎は、悩みつつも、『ゆっくりでいい。ひとつずつ、少しずつ親子の時を重ねていけばいい』と考えています。それは晴太郎が、さちの気持ちが一番大切だと考え、さちのテンポに合わせようと思っているからなんです。おっとりした菓子職人だったはずなのに、気持ちの面では、ずいぶんと男前になったと思います(笑)」
持ち込まれた縁談でお糸が窮地に
本作では、晴太郎の生家で、今は叔父が主人に収まっている「百瀬屋」にも、スポットが当たる。
弟の幸次郎にとって清右衛門叔父と「百瀬屋」は、晴太郎を陥れ、店から追い出した敵だ。少しずつ憎しみと怒りが和らいできたとはいえ、「百瀬屋」へ戻ることは考えられない。清右衛門の一人娘お糸は、そんな幸次郎に幼い頃から想いを寄せ続けていた。
そこへ、清右衛門がお糸へ縁談を持ち込んできた。
以前は「後継ぎさえ出来ればいい」と、ぼんくら婿候補ばかり連れてきた清右衛門だったが、今度の男、彦三郎は少し違った。清右衛門もお糸の母、お勝も彦三郎を気に入り、信を置いているようだ。
幸次郎を忘れられないお糸もまた、婿を取るつもりはないものの、つい、彦三郎に心を許してしまう。
だがその一方で、お糸の目には、彦三郎の不審さも見えていて……。
「お糸は、『婿を取って後継ぎを』という父の望みとは別の形で、『百瀬屋』を守ろうとしています。それは、自分自身が商いに携わること。そのために色々考えているし、覚悟もしている。ただそのことをお糸は、両親にも、晴太郎や幸次郎にも打ち明けてはいません。ひとりで孤独な戦いを続けてきました。そこへ、お糸の気持ちを見透かし、力を貸すと言ってくれる男が現れる。幸次郎を変わらず慕っているとはいえ、女心が揺れない訳がありません(笑)」
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