夫とふたりでマンハッタンのミッドタウンで地下鉄の階段を下りていくと、軽やかな音楽が聞こえてきた。仕事帰りのようなきちっとした服装で、トランペット、アコースティックギター、ドラムのトリオが、ホームで軽快にジャズを演奏している。
電車を待っていた五、六人の他人同士が、思い思いの動きでリズムを取り始める。皆、それぞれステップを踏んでいるところへ、お世辞(せじ)にもおしゃれとはいえない、太い柄(え)の傘をバックパックに突き刺した男の人が飛び込んできた。そして、真っ赤なドレスの中年女性に手を差し伸べ、一緒に踊ろうと誘う。女性は笑顔で応じる。
しばらくすると、ニューヨークヤンキースの野球帽をかぶった中肉中背の男の人が、黒いドレスの若い女性に近づき、ふたりは両手を取り合って踊り出す。
ホームの脇でそれをうれしそうに眺めている男たちが、その場で手足を動かし始める。いつしかそこは、パーティ会場になっていた。
私はアイパッドを取り出し、動画で撮り始めた。と、傘を背にした男の人が、踊りながら私に近づいてきた。私が、来たよ来たよ来たよ、と思わず後ずさりすると、その人が私のアイパッドと夫をさして、なまりのある英語で叫ぶ。
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