「まるでフランケンシュタインのような外見」になってしまったといい、鏡を見られない日々が続いているという。
さらに、全国放送で身内から性暴力被害を受けていたことを告白したことで、地元やインターネット上で好奇の目にさらされることになった。2ちゃんねるでは彼女に関するスレッドが次々に立てられて、個人情報が次々と特定されてしまう。このような状態ではもう一秒も生きていたくない。だから一刻も早く、安楽死を認めて欲しいというのだ。しかし当時の安楽死法では、命に別状のない彼女のような人間が死ぬことは認められていなかった。
彼女に興味を持った私は、学校の図書館で『新潮45 』を探して、わら半紙のような紙質に驚きながら手記を読んだ覚えがある。一読した時は、全身不随であるはずの彼女がなぜ2ちゃんねるまで確認できていたのか不思議だった。
しかしインターネットで調べると、彼女の弟が病室にパソコンを持ち込んで、女子高生を焚きつけているのだと書かれていた。他にも、彼氏が左翼運動家の息子だったとか、彼女は役者に過ぎず全ては安楽死の範囲を拡大したい勢力による陰謀だとか、様々な噂が流された。真相は不明だが、「若者の主張」事件がきっかけで、安楽死に関する議論が再燃したのは事実だ。
その後、安楽死が容認されるための要件は、徐々に拡大されていった。2005年にはベルギーやオランダのように精神的苦痛が理由での安楽死が認められるようになる。認定には二人以上の医師と、一人の認定カウンセラーとの面会が必要だが、「精神的苦痛」の定義は時代が下るにつれて拡大解釈される傾向にあった。
2008年には、安楽死の許可が下らなかった当時25歳の青年が焼身自殺を図った秋葉原事件が起こり、大きな議論を呼んだ。彼は派遣労働を繰り返す中で、安楽死を考えるようになり、インターネット掲示板で知り合った仲間たちとの集団死を望んでいた。しかし仲間たちが安楽死を認められる中、彼だけが受診したクリニックで「遊び半分で死を考えてはいけない」と高齢の医師に諭され、認定を得ることができなかった。そのことに逆上し、白昼堂々、焼身自殺をすることを思い立ったのだ。その凄惨な模様は、すぐさまその場に居合わせた人たちによって、YouTubeやニコニコ動画で共有され、国会を巻き込んだ論争に発展した。
現在の日本は、「世界で一番安楽死のしやすい国」と呼ばれ、海外から安楽死をするために訪日する自殺ツーリズムまで流行している。人口動態統計によれば、2017年の死者数は137万人だったが、その約1割にあたる15万人が安楽死でこの世を去っている。その中には安楽死がなければ自殺や病気で死んでいた人が多く含まれているはずだという。確かにかつて日本では自殺者数が年間3万人を超えたこともあったが、最近では数千人にまで落ち込んでいる。とにかく平成という時代に、日本の死をめぐる状況が劇的に変わった。
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