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本をまったく読まなかった少年が作家になった理由

本をまったく読まなかった少年が作家になった理由

『ガラスの城壁』刊行記念トークイベント


ジャンル : #エンタメ・ミステリ

『ガラスの城壁』は私自身の物語

 今回の作品『ガラスの城壁』は、私のいままでのものとはだいぶテイストが違います。

 スタートの時点ではこういう話になる予定ではなかったんです。少年ハッカーと犯罪者が激しい攻防を繰り広げるというストーリーを考えていました。

『確率捜査官 御子柴岳人』のモデルになった古くからの知人がIT業界で働いており、ハッキングに関して詳しかったので、編集者さんと二人で結構取材しました。その知人は「神永さん、そもそもハッカーに対する考えが間違っています。ハッカーはパソコンでカチャカチャやらないんです。そもそも大切な情報はネットワークにつながっていない。大切な情報を盗むなら、酒飲ませて酔っ払わせて、いい女を抱かせて、そいつを味方にするくらいじゃないと」と言われました。

 当初考えていた物語のプランは全部崩壊。帰り際、落ち込みました。その日、ひとりで電車で帰りながら、思いをめぐらしていたら、急にひらめくことがあって。

 僕の作品の登場人物にはモデルがいますが、友達や知り合いで、つまり第三者なんです。そこで、今回の作品でははじめて思春期の頃の自分のモデルに書いてみようと思いました。ハッカーをメインにするよりも、ひとりの少年の成長物語を描こう。大変だったこと、辛かった思いを投影しよう。少年時代の自分に思いを馳せながら、自分の感じたことをストレートにキャラクターに乗せてみました。

 ふつう、このスケジュールはありえないんです。第一稿は数ヶ月以上前に渡すのが一般的です。今回、通常は数ヶ月かけてやる作業を3週間でやりました。無事、発売されてよかったです。そういうときの勢いは作品に反映されるもので、時間をかけて書けばいいかというと、あんまり寝かしてしまうと作品の勢いが削がれて、イマイチになってしまうこともあります。不思議なものですね。 今年4月20日のファンミーティングに参加した方はご存知かと思いますが、その段階でまだ原稿用紙60枚くらいでした。まだ、オチも決まっていなかった。原稿の締切はゴールデンウィークあけ。残り20枚くらいで風邪をひいて、39度の熱が出ました。でも、一週間休んだら発売されないと思って、一日だけ休んで、熱がある状態で一気に書き上げた。楽しかったですね(笑)。

『ガラスの城壁』のPOPに「これは私自身の物語です」と直筆メッセージを書きました。小説って、物語ってものすごく面白いし、楽しいんです。この作品を、そして三省堂池袋本店さんの選書フェアで薦めている本を、ぜひ楽しんでください。そして、かつての僕のように“文学”を読まず嫌いだった人たちにも、ぜひ小説の面白さを知ってほしいと思っています。

単行本
ガラスの城壁
神永学

定価:1,540円(税込)発売日:2019年06月27日

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