三年ほど前のある昼下がりの出来事を、森崎青子(もりさきあおこ)はまるで、自分がもう一度産まれ直したような、生々しく忘れがたい感覚と共に記憶している。
青子は実家のリビングの床へ横向きに寝そべり、下敷きにしたキルト地のラグとフローリングとの境目に両手を投げ出していた。その辺りにはちょうど、ガラス戸から差し込む初夏の日差しが細長い平行四辺形を描いていた。昼食後のデザートを食べるうちに眠くなって、テレビを消して横になったのだ。ローテーブルにはまだカステラが二口ほど残った小皿と、自家製の麦茶のコップが置かれたままになっている。リビングには丈夫な帆布のカバーがかかったソファーも設置されているのだけど、青子は子供の頃から、日当たりの良い位置を狙って床に寝転がるのが好きだった。
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