すねに傷のある女などキャバレーには掃いて捨てるほどいる。金がいる女も、金を貯めるのが好きな女も。男が好きでやっている女も、男のことが吐くほど嫌いな女も。
いろんな人間がいたが、あの世界は、女が特に身ぎれいでいなくてもいいことが、ルーにはたいそう居心地がよかった。
三十九年に開通した東海道新幹線ひかりの一等車で東京に向かった。
やぐらソージの紹介で、ルーは青山にあるマルコ・プロダクションに所属することになった。ロイヤルシャトー南青山という、当時建ち始めたばかりの分譲マンションの一室を与えられ、東京では無名であるにもかかわらず、すぐに専属マネージャーがついた。
当時はいわゆるグループサウンズの最盛期にあたり、バンドが解散したり移籍したり独立したりと、芸能界全体が忙しなく、そしてとにかくテレビのおかげで活気があった。大阪から一旗揚げようとやってくるルーのような若者はあとをたたず、そしてそのほとんどが二年ももたずに郷里に帰っていった。そんな背中を、ルーは数え切れないほど見送った。
ルーのVIP待遇はもちろんやぐらの口利きによるところもあっただろうが、それ以上に期待されていたポジションがアイドルや歌手でないことが大きかった。かわいくて歌える今ふうのアイドル候補は星の数ほどいたし、バンドもたくさんいた。ザ・ドリフターズのようにバンドとして歌をやりながら、コントで名をあげたグループも珍しくなかった。
そんな中、事務所がルーに用意していたのは、あるラジオの仕事だった。ちょうどそのころ、決まり切った業界ルールをぶち壊す番組が必要ではないかとの声があがっていたからである。しゃべれて場を回せてそれでいて視聴者に嫌われない、自由で闊達な歯に衣着せない物言いの女は当時あまりいなかった。
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