通販番組『まるっとお買い上げ・ええもんバザール!』の収録スタジオで、先に準備を進めていたスタッフらがルーの顔を見て頭を下げた。半分はまだ日が浅いが、プロデューサーや進行係はなじみばかりだ。
「さっきからなにわめいてんの、ルーさん」
「わめいてへんねん。断末魔や。もうあした死ぬから」
言うと、照明を直していた若い子たちが数名、どっと笑う。
「今日も、ルーさんがなにを売るか、楽しみにしてますよ!」
『ええもん』はもう二十年近くも続いている長寿番組である。正午から始まり約一時間、ルーをメインの司会に、局アナと、時々メーカーの営業が観客席から引っ張り出され、掛け合いで商品の紹介が進む。いわゆるテレフォンショッピングの先駆けである。開始当初の昭和四十五年は当然生放送、いまも連日、抽選で選ばれた二百名の観客がルーのトーク聞きたさに集結する。
この番組がここまでの長寿番組に成長し、またウケ続けたのには理由がある。ルーが所属しているマルコ・プロダクションの社長藤田(ふじた)は、この二十年酒が入るたびに同じ話を繰り返した。「その日、その時の気分でルーさんが商品を選ぶっちゅうあのスリルがいいんだ」
――なにせあの人には業界のルールが利かん。天下のマルプロの社長が頭さげて頼んでも、メーカーの偉い人がうちの商品出すなら絶対に取り上げろと圧力かけても聞かん。視聴者もスタッフもルーさんのその性格がわかってるから、大手の掃除機になんか目もくれず、たった千円の昆布の化粧水を選ぶのを待ってる。あれが良かった。お客さんとメーカーとテレビ局をぜんぶ敵に回しての、一対二百の真剣勝負がよかったんだよ……。
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