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『グランドシャトー』高殿円――立ち読み

出典 : #別冊文藝春秋
ジャンル : #小説

別冊文藝春秋 電子版27号

文藝春秋・編

別冊文藝春秋 電子版27号

文藝春秋・編

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 こうして、ルーの東京デビューは、大阪弁丸出しで好き放題NGなしでしゃべりまくるラジオ番組から始まった。

『好きな歌手のコンサートに行ったら退学になる? でもどうしても行きたい? ハァ、そんなんバレんかったらええねん。なんでって、そんなんおとうはんとおかあはん見てたらわかる。おとうはん浮気してるけど、バレてないから家の中平和やろ? 平和ってそういうもんや』

 大阪弁を隠そうともせずに好き勝手に話すルーの番組は、聞いているだけでスカッとすると、金曜の夜、テレビを父親に独占されている若者がこぞってダイヤルを合わせた。若い世代を中心に火が付き、公開収録には「ルーのここだけの話」を聞きたい人々が集まった。

 とある週刊誌に、キャバレー出身であることが書かれるとわかると、その日のうちに、ラジオで自分からグランドシャトーで働いていたことを包み隠さず話してしまった。父親が早くに亡くなり、家族に迷惑をかけられないと単身大阪に出てきて身一つで成り上がった話をすると、性別年齢問わず視聴者からの大きな支持を得た。

『うちは歌もうまないし、顔がええわけでもない。背もちっこくて鼻も低い行き遅れや。まあ、それでもええねんけどな。なんせそれでもええいう男が大半やって、キャバレーで知ったからな』『なんで東京出てきたかって? ハァそんなん決まってる。金や。金。世の中金のために働く以外なにがあんねん。まだ訊くの? これ以上は金とるけど』

 からっとした口調で、人が言いにくいことをさらりと口にするルーは、驚くほど東京に受け入れられた。

別冊文藝春秋からうまれた本

電子書籍
別冊文藝春秋 電子版27号
文藝春秋・編

発売日:2019年08月20日

プレゼント
  • 『赤毛のアン論』松本侑子・著

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