逢坂 私が直木賞をとったとき、池波さんが選考委員でいらした。選評で「今がちょうどいい時期だから会社(博報堂)をやめて作家一本になるべきだ」なんて書かれました。私はそれは守れずに十年勤めてしまいましたけど、池波さんはきっと、作家は片手間にできるような甘いもんじゃない、ということをおっしゃりたかったんでしょう。まさに頂門の一針(急所を押さえた教訓)で、励みにもなりましたよ。
近藤 私たち、先生に肩をポンと押してもらったんですね。だけど、その後は知らんよ、って。
逢坂 そうそう、後は自分で頑張ってやれよ、とね。池波さんはご自分のおっしゃったことを、いちいち、どうのこうの説明しない。そういう意味では性格と作風が、よく一致している人です。
近藤 独立する場所に銀座を選んだのは、銀座が先生の第二の故郷だったから。先生への恩返しのつもりでした。バブルがはじけた直後でしたが、九坪の店を借りるのに一億一千万円の大借金をしました。私の周りの九割以上の人はうまくいかないから、やめたほうがいい、と言いましたね。池波先生は「気学」に凝ってらして、「近藤君には経営の才覚がある。料理をやっている人はだいたい女の星があるもんだけど、近藤君にはない。珍しい。でもそれは、経営能力があることだ」と。結局、そのときの借金は七年で返しました。
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