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少年は走る──生きるために。その姿は小説を描き続ける筆者に重なるのだ。

少年は走る──生きるために。その姿は小説を描き続ける筆者に重なるのだ。

文:あさのあつこ (作家)

『車夫』(いとうみく 著)

出典 : #文春文庫

『車夫』(いとうみく 著)

 いとうの作品を読むたびに、いとうががむしゃらにまっすぐに“人”に向かっていこうとしている、その迫力を感じるのだ。それをダイナミズムと呼ぶのは決して、的外れではないと思うのだが。

 書くことで繊細にダイナミックに、“人”に迫り、世界に迫ろうとする作家はそう多くないと思う。人間の内を繊細に探ろうとする書き手も、躍動的に大胆に作品世界を展開させていく作家も多くいる。彼女ら彼たちは、優れた作品を次々に生み出してもいる。しかし、ゆっくりとどこか躊躇いがちに“人”に迫りながら、物語を大きく飛翔させることのできる者はそう多くない気がする。

 いとうは、数少ないそんな作家の内の一人だ。

 あくまで、わたし個人の感覚でしかないけれど、頷いてくれる人はいると思う。

 そして、もう一つ。いとうの守備範囲の広さには驚嘆する。するしかない。

 幼年物から『車夫』のようなYAというか一般書に近い作品まで自在に書き上げる。言わば、「内野のどこを任せても大丈夫」というプレーヤーだろう。どんなイレギュラーバウンドの球も必ず身体の前で止め、捉える。柔と剛を併せ持つが故のプレーだ。

 しかも、多作だ。実に精力的に書き、読み、さらに書く。

 今、書かなければいつ書くのだ。書くことを後回しにしてまでやるべきことはない。

文春文庫
車夫
いとうみく

定価:814円(税込)発売日:2019年10月09日

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