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倫理のレッスン 新連載 第一回 東京で溺れない哲学

倫理のレッスン 新連載 第一回 東京で溺れない哲学

山内志朗

文學界12月号

出典 : #文學界

「文學界 12月号」(文藝春秋 編)

 私は哲学をしたくて、東京に出てきた。高校生のときに哲学書を買い求め、読んで分かりもしないのに、哲学を学ぼうとした。田舎の狭い世界から広い世界に移動できると思っていた。

 私は自由だと思っていた。しかし、自由ではなかった。自己を罰するかのように無駄金をパチンコにつぎ込んだ。儲けるためではなかった。暇だったからでもない。罪悪感を自分自身の内に構成するために酒とギャンブルにはまっていた。都会は海のごとく、責め苛み、自己意識は自滅するヒーロー気取りを求めていた。

 大学三年生の頃、留年が決まった。売血で金を稼いだり、日払いのバイトでしのいでいた。日銭を手に入れると、その金を持ってパチンコに行って、スッカラカンになって、ワンカップの日本酒を自動販売機で買って下宿で腐っていた。自動販売機の「アリガトウゴザイマシタ」という人工音声がこちらの人間性をなじっているようで足で蹴飛ばしたい衝動を抑えながらトボトボと下宿に帰っていた。

 身も心もズタボロになって、機械にもバカにされて、飲むマズイコップ酒は腹にも心にも染み渡る。格別の味わいがする。しかしそういうときでも、「かっこつけてんじゃねーよ」という低い心の叫びが聞こえてくる。

 

この続きは、「文學界」12月号に全文掲載されています。

文學界 12月号

2019年12月号 / 11月7日発売
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