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講演 交換様式と「マルクスその可能性の中心」

講演 交換様式と「マルクスその可能性の中心」

文:柄谷行人

文學界12月号

出典 : #文學界

「文學界 12月号」(文藝春秋 編)

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 私が交換様式という言葉を考えたのは、一九九〇年代後半、史的唯物論に関して、根本的に考え直そうとしたときです。これまで、オーソドックスなマルクス主義(史的唯物論)では、社会構成体の歴史は、建築的なメタファーにもとづいて、こう考えられていました。それは、観念的・政治的な上部構造と経済的な土台(ベース)または下部構造からなっており、上部構造は下部構造によって規定される、というものです。

 具体的にいうと、下部構造とは「生産力と生産関係」です。生産力は人間と自然の関係からくるものであり、生産関係とは生産力に対応して生じる人間と人間の関係である。そして、生産力が増大すると、旧来の生産関係との間に矛盾が生じ、その衝突、すなわち、階級闘争を通して新たな生産関係が作り出される。こうして、経済的な土台の在りようが、観念的・政治的な上部構造の在りようを決定する、というわけです。

 このような史的唯物論の規定の中に、すでに「力」という言葉が出ています。生産力がそうです。生産力は科学技術をふくめて多様なものですが、物質的な力といっていいでしょう。一方、上部構造は政治的・イデオロギー的なものです。いわば、観念的な力です。そして、史的唯物論とは、観念的な力は物質的な力によって規定されるという唯物論です。したがって、国家・宗教・芸術などの「上部構造」は、経済的下部構造に規定されることになる。

文學界 12月号

2019年12月号 / 11月7日発売
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