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講演 交換様式と「マルクスその可能性の中心」

講演 交換様式と「マルクスその可能性の中心」

文:柄谷行人

文學界12月号

出典 : #文學界

「文學界 12月号」(文藝春秋 編)

 しかし、このような見方は「経済的決定論」として、さまざまな批判にさらされてきました。国家・宗教・芸術などの「上部構造」が、経済的下部構造に規定されることは確かですが、むしろ逆に、それが経済的下部構造に影響を及ぼすことがある。それを最初に指摘したのは、マックス・ウェーバーです。彼は『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』(一九〇四―五年)で、近世西洋における宗教改革が「資本主義の精神」をもたらしたことを指摘しました。つまり、宗教的観念が産業資本主義を始動させたということは、政治的・観念的上部構造が下部構造から自立しており、且つむしろ下部構造を変える「力」を持つことを意味します。

 むろん、ウェーバーは、そのような宗教改革がそれ自体、経済的下部構造によって規定されていたことを否定したわけではありません。たとえば、生産力でいえば、グーテンベルクによる印刷革命がなければ、ルターが翻訳したドイツ語聖書が普及することはありえなかったでしょう。生産関係でいえば、独立自営農民の出現が大きかった。彼らの中から、産業資本家と産業労働者の両方が出てきたのです。そして、彼らがプロテスタンティズムを支えた、といえます。したがって、ウェーバーはむしろ、政治的・観念的上部構造と経済的下部構造の相互規定性を主張したといったほうがいいでしょう。しかし、いずれにしても、ここで大事なのは、産業資本主義が成立するためには、それを強いる、何らかの観念的な「力」が不可欠だったということです。宗教改革からそれは来た、とウェーバーは考えた。

文學界 12月号

2019年12月号 / 11月7日発売
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