子供を嫌いとも、好きだと思ったこともない。ただ年齢を重ね、産めなくなる可能性が高まるのを感じながら、死ぬまで子供のいない人生を歩む覚悟ができているかといえば、そこまでの強い選択ではないと、ある日気がついてしまった。産むという経験をしなかったことで、そのとき目の前にいる恋人を、責める日がくるかもしれないことが怖かった。だからといって、子供を持つに相応する気構えができていたかといえば、そんなものはないにひとしかった。いったい直も自分も、素直に子供を欲する気持ちを、どこに置いてきたのだろう。産んだことに悔いはまったくないが、なぜ自分は子供を産むことを、あるいは産まないことを、意識的に選ぶことができなかったのだろう。
同様に、紗智やその親、路上で身を売ろうとする少女たちを、別の世界の人間のように考えることはできない。ほんの少しボタンをかけ違えれば、誰もが当事者になり得ると思っている。居所不明児童や居所不明児童が生まれる背景について知ろうとすると、虐待やネグレクトの実例と、制度としての福祉や教育からこぼれおちるさまざまな現実が、必ずひとまとめで語られる。
〈「結局また、戻ってしまうんです、『路上』に……。コインロッカーをクローゼット代わりに、ネカフェやファストフードを自分の部屋として使う暮らしの方が、あの子たちにとっては気楽なんでしょう。でも、そういう生活には、必ず危険がつきまといます。『助けようか』と言ってくる男たちが善意だけのわけはないんです。ああいう子たちの中には軽度の知的障害や発達障害を抱えている子たちもいます。誰かが、守ってあげなくてはなりません。本当は、大人がその役目を担わなければいけないんです。本当は……」〉
-
『赤毛のアン論』松本侑子・著
ただいまこちらの本をプレゼントしております。奮ってご応募ください。
応募期間 2024/11/20~2024/11/28 賞品 『赤毛のアン論』松本侑子・著 5名様 ※プレゼントの応募には、本の話メールマガジンの登録が必要です。