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親になるとはどういうことか──自らの生き方を問われる、力強い物語

親になるとはどういうことか──自らの生き方を問われる、力強い物語

文:大塚真祐子 (書店員)

『漂う子』(丸山正樹 著)

出典 : #文春文庫
ジャンル : #小説

『漂う子』(丸山正樹 著)

 壮絶だった。無意識にむごい部分を読み飛ばしている自分がいて、何度も同じ箇所をたどる羽目になった。そして、どの本にも同じ虐待事件が引き合いに出され、説明されることに言いようのない虚しさを感じた。

〈親とは何か。親と子は何をもってつながっているのだろうか。〉(『ルポ 居所不明児童』217ページ)という何気ない問いが、子供の長期監禁や衰弱死の事例に触れた後では、刃物のような鋭さで体内を貫く。その問いは『漂う子』という作品を読みながら、自分の中に自然と生まれたものでもあった。

 

 親とは何か。祥子から突然の妊娠を告げられたことで、直は自らの生き方を問われる。これがこの物語のもう一つの軸となる。妊娠を告白された際の直の反応が、苦笑するほどリアルだ。

〈可能性があるとしたらその時しかない。九週目と言ったか。計算は合う気がした。でも、たった一回で?〉

 帰宅した直は翌日、ためらいながらもノートパソコンで、「妊娠」「中絶」と検索する。率直にひどいと思いながら、直の行為を一方的に否定できるのか、考えあぐねる自分もいる。五歳の子を育てているが、かつて直と同じように考えていた自分が、出産を経験すれば簡単にいなくなるというわけではないのだ。

〈なぜ? と直は自問する。

 なぜみんな、そんなに簡単に子供をつくろうなんて思うのだろう。〉

文春文庫
漂う子
丸山正樹

定価:902円(税込)発売日:2019年11月07日

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