「あ、ちょい待ち。トイレに行ってくるから、手続きしといて」
賢児がひとりで視聴申し込みに行くと、カウンターのお姉さんがじろりと顔を見た。パッケージの精子画像を見てあやしんだらしい。でも、譲が駆(か)けて戻ってきて隣に並ぶと、納得したように奥へ中身のテープを取りにいった。
譲にはそういう雰囲気があった。賢児と違って分厚い眼鏡をかけてもいないし、知識をひけらかしたりもしない。でも襟(えり)のついたシャツを着ていて、科学雑誌を広げている譲の額からは、いつも知性の光が蛍(ほたる)みたいに飛び回っている。
譲には学校の授業は簡単すぎてつまらないらしい。よく居眠りしている。担任に叱られると、こっそり肩をすくめて、まわりの女の子たちを笑わせていた。
「蓼科(たてしな)くんはなんで羽嶋(はじま)なんかとつきあうんだろ」
クラスの女子たちはいつも聞こえよがしに言っている。蓼科というのは譲の、そして羽嶋は賢児の名字だ。
「羽嶋っていっつも一番に手を挙げるし、先生にひいきされたいんじゃない? 球技大会でも役に立たないし。あいつさえいなきゃ最高のクラスなんだけどな」
それはこっちの台詞(せりふ)だ。お前ら全員いなくなって、自分と譲だけになれば、さぞかし居心地のいいクラスになるだろうに。
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