いまも答え探しの真っ最中
芦沢 住野さんは、もはや自分のキャリアさえも使って、認識の硬直化をぶち壊しにいっていると思います。相当しんどい中で、毎回これだけ違う、魅力的な球を投げていらっしゃるというのが、本当にすごいな、って尊敬するんです。
住野 『青くて痛くて脆い』は、明確に『君の膵臓をたべたい』を“倒す”ことを目的にして書いた話でした。それは作品として上回るということ以上に、『膵臓』を好きでいてくれる人たちの期待を、いい意味で裏切りたいな、と。どの小説を書く時も、抉るというか、読者の方の心に跡がつくようなものを書きたいと思っていますし、自分もそんな小説を読みたいと思います。
何でしょう、小説を読んでいて、「これを言われてしまったか!」と思いたい、という感じなんですよね。『カインは言わなかった』でも、それこそ逃げ出そうとしている自分や感情を見つめ直させられるというか、そういう表現を突きつけられるんです。それは小説家としてだけじゃなくて、自分の生活を振り返っても、「ちゃんと全力で生きているか」という問いを突きつけられる。そういう作品を読むと、飲んだくれてる自分は何なんだ、と思わせられるんです(笑)。
日々、「もっとかっこいい大人になりたいのにな」と思っているのになれない、ということと闘い続けている最中なんですよ。でも、「自分はそもそも情けない人間だからしょうがないよな」と諦めてしまいそうなところで、『カインは言わなかった』のような小説に出会うと、「そうじゃねえだろ!」と活が入るんですね。
芦沢 夢を追う人物や、表現者の話を読んだり書いたりするのって、すごく勇気がいりますよね。すごく自分の核に近いところにあって、自分自身、まだ正解がわからないものを突きつけられているような感覚があります。
住野 現在進行形のお話ということですよね。
芦沢 はい、今もってなお、答えを探している真っ最中ですね。
住野 こうした小説世界に向き合っていると、自分の中の、本当は見たくないような汚い気持ちにも、向き合わざるをえないですよね。他の人を見ても、「あの人は才能があるから」と考えてしまいがち。僕がすごく好きな作家さんに関して「あの人はデビュー当時から文章が完成されていた」というような話を聞くと、「そうか、あの人と僕はモノが違うんだな……」とかすぐに思っちゃう。でも、才能の違いだと思って楽をしていちゃいけないんですよ。そんな時に『カインは言わなかった』を読むと、「ああ、クソッ! 逃げちゃダメなんだな!」と、また前を向くことができるんです。
歌詞引用「上京タワー」(作詞 アフロ、作曲 UK)
すみの・よる 高校時代より執筆活動を開始。デビュー作『君の膵臓をたべたい』がベストセラーとなり、二〇一六年の本屋大賞第二位にランクイン。他の著書に『麦本三歩の好きなもの』『青くて痛くて脆い』『か「」く「」し「」ご「」と「』『また、同じ夢を見ていた』『よるのばけもの』がある。
あしざわ・よう 一九八四年東京都生まれ。二〇一二年『罪の余白』で第三回野性時代フロンティア文学賞を受賞しデビュー。一七年『許されようとは思いません』が第三八回吉川英治文学新人賞候補。一八年「ただ、運が悪かっただけ」、一九年「埋め合わせ」がそれぞれ日本推理作家協会賞短編部門候補に。一九年『火のないところに煙は』で二〇一九年本屋大賞、第三二回山本周五郎賞候補。第七回静岡書店大賞受賞。一九年八月、最新刊『カインは言わなかった』を刊行。