司馬さんはしばしば「座談の名手」と呼ばれる。また、いささか品のない言い方だが、「人たらし」などと言われることもある。私ごときが申すのも何だが、話題は歴史一般はもちろん、例えばかつて中国山地で行われていたタタラ製鉄のための高殿の構造など、微細な「余話」にまで及ぶから、人は気がつけばいつの間にか聞き入ってしまうことになる。例えばの話(実際に聞いたわけではない)、本書に出てくる日露戦争前夜のベゾブラゾフと栗野公使の名前をめぐる挿話(「策士と暗号」)のような話が、さり気なく会話の中に出てくるのである。関西の人らしく決して直接的な物言いではないが、人物評など後で考えると相当辛辣なことをおっしゃったのにその時は気づかなかった、などということもあった。司馬さんのエッセイは語り口、息遣いなど座談そのままと言ってよく、今回読み返して改めて懐かしさにかられたものだ。
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