アジア的専制についてひとしきり語った後、司馬さんは最後に「隣国の悪口を言うのは楽しいもんやなあ」と、聞き捨てならない一言を発して私を慌てさせた。思わず、「先生、まさかそのまま字にすることはないでしょうね」と問い返したほどだ。北朝鮮や朝鮮総連を批判しただけで、「差別」と糾弾され抗議が殺到した時代の話である。
司馬さんはかつて「国民作家」と呼ばれ、『文藝春秋』もまた「国民雑誌」と呼ばれた時代があった。当然ながら「国民雑誌」は「国民作家」と相性がよく、良質な読者に支持されてこの国の世論を静かに支えてきたように思われる。が、ベストセラー作家は数多く出現しても、「国民作家」も「国民雑誌」ももはや存在しない。それは必ずしも悪いことではないかもしれないのだが、一方で、先の見えない日々をただ漂っているに似た不安が脳裏を去らないのは私だけであろうか。
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