「(菅原)天空とか吉田は『剃れよ』って言うんですよ。みっともないからって。でも運を貯めようと思って」
そのご利益か、三回戦の横浜戦では、八回裏に起死回生の逆転3ランを放っていた。
高橋は打席に向かう前、自分のバットとヘルメットを持ってきてくれた二年生で控えの小松雅弥にこう告げた。
「打つから見てろよ」
その心を高橋はこう打ち明ける。
「ここで打てたらかっこいいなと思って。まあ、常に打てる気でいるんですけど」
場内アナウンスが高橋の名前を告げると、三塁側アルプススタンドのブルーに染まった一区画を除き、ほとんどすべての場所から大きな拍手が湧いた。
近江の捕手・有馬諒が振り返る。
「声より、拍手ですね。見渡す限り、拍手、拍手、拍手で。それに圧縮されるような感覚がありました」
近江のマウンドには、左腕の林優樹。身長一六八センチ、体重五八キロと、まるで中学一年生のように小さな体をしていた。
球速は一三〇キロ前後だが、精密機械のようなコントロールとキレのある変化球で、三回戦の常葉菊川戦では八回を投げ、一一個もの三振を積み上げていた。
高橋は際どいコースのボールを続けて見送り、ボールカウントは2ボール1ストライク。そして四球目、真ん中に入ってきたチェンジアップを弾き返した。痛烈なゴロがサードの右横を抜ける。突き上げるような歓声と拍手が球場の空気を揺らした。
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