プロローグ 「二人の『勝手』」
二人の「勝手」が、ビッグプレーを生んだ。
二〇一八年八月一八日、阪神甲子園球場。上空には、綿菓子を千切ったような巻雲が浮いていた。秋の使者である。
第百回全国高校野球選手権・準々決勝の第四試合は、午後三時五八分にプレーボールがかかった。
四万人の観衆を飲み込んだスタンドは観客の服で白く光っている。
西日を浴びた色鮮やかな緑と茶色の中で、白と紫のユニフォームと、薄いブルーのユニフォームが光沢を放っていた。
一塁側ベンチは秋田代表・金足農業高等学校、三塁側ベンチは滋賀代表・近江高等学校だった。
甲子園は、「銀傘」と呼ばれる巨大な屋根が内野スタンドを覆っている。試合前、一塁側ファウルグラウンドを覆っていた銀傘の陰は、九回裏に入る頃、午後五時三八分には、外野の一部と内野グラウンド全体に広がっていた。
最終回を迎え、金足農業は1−2と1点リードを許していた。
先頭打者は「六番・ファースト」の高橋佑輔。守備はからっきしだが、勝負強いバッティングが売りだ。ニックネームは「ザ・男」。筋トレで鍛えた分厚い胸と、極太の眉毛がトレードマークだ。ほとんどの三年生は眉毛を手入れしているが、高橋はこの夏は一切いじらなかった。
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