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主人公の成長物語を読みながら、自分の中の子どもの部分が何度も疼く。

主人公の成長物語を読みながら、自分の中の子どもの部分が何度も疼く。

文:中江 有里 (女優・作家)

『車夫2 幸せのかっぱ』(いとう みく)

出典 : #文春文庫
ジャンル : #エンタメ・ミステリ

『車夫2 幸せのかっぱ』(いとう みく)

 多少のお節介はできたとしても、他人の人生に本当に踏み込むことはできないのだから。

「やっかいな人」の乃亜は走とそれほど年は変わらない。父の再婚に複雑な感情を抱いているが、走の立場からいえば贅沢な悩みでもある。

 乃亜と走の決定的な違いを挙げるなら、乃亜は子どもでいられる。しかし走は大人にならざるを得なかったというところではないか。

 親に対し傲慢ともいえるほどの態度をとれるのが子どもの特権だ。衣食住はもちろん、教育を受けることも保証され、愛されて当然の子ども。そんな自分を差し置いて、親が自分の都合を優先しようとしている、それが許せない! (どう考えても傲慢でしょう)

 白状するとわたし自身、乃亜と同じような思いを抱えたことがあった。振り返って自分の身勝手さに今も赤面してしまう。当時は親が恋愛するという生々しさに耐えられなかっただけだ。

 家庭の事情で大人にならざるを得なかった走だって、まだ子どもの部分は残っている。

「ハッピーバースデー」で母に会うかどうかを迷うのは、走の中で大人と子どもの自分がせめぎあうからではないか。そのせめぎあいの中で、走は自分の本心に気付き、母の気持ちに思いをはせるようになる。

 どれだけ年を重ねても、人は子どもの自分をどこかに持ち続けて、共存しているのだと思う。走の姿を追いながら、自分の中の子どもの部分が何度も疼いた。

 本書は走の成長物語であるが、実は大人たちの成長も描いている。

 わたしもまだまだ成長の余地がある、と気づかせてくれた。

文春文庫
車夫2
幸せのかっぱ
いとうみく

定価:869円(税込)発売日:2020年05月08日

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