それをひっくり返したのは、他でもない松崎夏未さんの鶴の一声――というか、虎の咆哮とも言うべき力強い主張でした。もとから八咫烏シリーズを好んで読んで下さっていた松崎さんは、シリーズ全体の構成を非常によく理解なさっており、コミカライズするならば『烏に単は似合わない』から、とおっしゃって下さったのです。
八咫烏シリーズ第1部を構造的に説明しますと、山内という異界において最小の単位である深窓の姫君の視点で物語を始め、それを貴族階級の男性、庶民の生活と徐々に裾野を広げて行き、最終的には限界まで大きくした単位を俯瞰した挙句ぶっ壊すという形になっています。
その構造は私がこだわっていた部分でしたので、当時、まだ顔を合わせてもいなかった松崎さんがそれを理解して下さっていたことには非常に驚き、同時に、この上なく頼もしく感じました。先述したような問題点を抱えるコミカライズは並大抵の苦しさではなかったと思いますが、松崎さんはそれに見事に打ち勝ち、ただ「小説の漫画化」というだけではなく漫画版『烏に単は似合わない』というひとつの作品にまで昇華して下さいました。本当に、私が想定していたよりもはるかに素晴らしい漫画となったと感じております。
無事に完結させて下さった今、血を吐くような思いで、これ以上ないほど美しくすさまじい原稿を仕上げて下さった松崎夏未さんには、「ありがとう」以外にも言いたいことがいっぱいあります。一緒に仕事をさせて頂けたことは信じられないような幸運でした。今はこの奇跡のようなご縁が、少しでも長く続きますようにとただただ祈るばかりです。
阿部智里(あべ・ちさと) 1991年群馬県生まれ。2012年早稲田大学文化構想学部在学中、史上最年少の20歳で松本清張賞を受賞。17年早稲田大学大学院文学研究科修士課程修了。デビュー作から続く著書「八咫烏シリーズ」は累計130万部を越える大ベストセラーに。松崎夏未氏が『烏に単は似合わない』をWEB&アプリ「コミックDAYS」(講談社)ほかで漫画連載。19年『発現』(NHK出版)刊行。現在は「八咫烏シリーズ」第2部『楽園の烏』を執筆中。
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