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木村綾子「その本が、その場所にあること」――これからの「書店発」企画の可能性

木村綾子「その本が、その場所にあること」――これからの「書店発」企画の可能性

別冊文藝春秋

電子版31号

出典 : #別冊文藝春秋
ジャンル : #小説

その本が、その場所にあること

 東京・下北沢のB&B。一年間の期間限定で福岡・天神にあったRethink Books。書店ではないけれど、立ち上げからプランナーを務めている横浜・みなとみらいBUKATSUDO。太宰治の生家であり、企画運営を務める「太宰治検定」の本拠地、青森・五所川原……。

 企画の仕事を続けるなかで感じたのは、同じ本でも、置かれる場所が異なることで、まったく違う表情を見せるという気づきでした。

 同じ企画でも、開催される場所が異なることで、語られることが変わり、参加者への届き方や刺さり方にも変化が生まれるという驚きでした。

 そしてそれは私にとって、とても面白く、刺激あふれる発見でした。

 いつだったかのインタビューで語った言葉も、はたと思い出しました。

「人と人、モノと人、場と人とをつなぐ。企画することで『何かと何か』がつながる。つながってしまうこと。それはときに、人の人生を左右するほどの重大な事件にもなりうる――。“と”の役割を担う企画者であれたらと願うと同時に、その責任の大きさも常に感じています」

 それは、過去の自分からのメッセージとして、現在の私に響きました。

 そうか。「その本が、その場所にあること」「その場所にその企画があること」は、奇跡でもあったのか。だとするなら、本と場所が起こす奇跡を見てみたい。

 私の中に新しい挑戦が芽生えました。

 そしてその先に生まれた企画が、『Perch』だったのです。

『Perch』はなぜ生まれたか

 新しい挑戦についてまっさきに相談したのが、又吉直樹さんでした。

 又吉さんとは、太宰治好き、同じ1980年生まれ、という共通点からご縁が生まれました。

 私が「太宰治検定」を、又吉さんが「太宰ナイト」を始めた2009年は、太宰治生誕百年を迎え、太宰ブームが再燃していましたが、暗くてネガティブな印象も、まだ根強く残っていました。

 でも、私にとって太宰の魅力はそれだけではなかった。優しさや気遣いに溢れていて、人の孤独を救うユーモアさえ持っている。笑える作品だっていっぱいある。それを伝えたくて、説得力が欲しくて、大学院まで出たけれど、「面白いんです!」と何百回説明したところで、又吉さんが太宰を語ったときに起こす「笑い」には、まったく敵わなかった。人の心を動かすとはこういうことだと、私は彼から学びました。

 とくに、2011年から2019年まで出演者として参加した「太宰ナイト」では、又吉さんの脳と心の襞に触れるような経験を得ました。

別冊文藝春秋からうまれた本

別冊文藝春秋 電子版31号(2020年5月号)
文藝春秋・編

発売日:2020年04月20日

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