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木村綾子「その本が、その場所にあること」――これからの「書店発」企画の可能性

木村綾子「その本が、その場所にあること」――これからの「書店発」企画の可能性

別冊文藝春秋

電子版31号

出典 : #別冊文藝春秋
ジャンル : #小説

 太宰とその作品をモチーフにしたコントや大喜利など、とりわけお笑いに寄せた切り口は、ひとつ間違えば「私の太宰をバカにされた」と、ファンに不快感を与えかねない演出でもあったと思います。けれど又吉さんは不快感どころか、きっちり笑いにつなげていました。そんな高度な現場に同席していいのだろうか、と気後れもしましたが、最後の年まで、又吉さんは私を誘い続けてくれました。

「僕がお笑いで表現する太宰と、正しい知識とをしっかりつなげる役割として、木村さんが必要なんです」

 その言葉が、どれほど自信になったか知れません。

「こんなにも自由な発想で文学とあそぶことができるのか!」

 その日その場に集まった全員で、その発見を喜び合うような空気が、「太宰ナイト」には満ちていました。それが予定調和では起こり得ないものであることを、企画をするひとりの人間として、私には痛いほどよく分かっていました。

 芸人として活躍し、ベストセラー作家になってからも、劇場という空間を変わらず大切にしていることも、信頼を寄せる大きな理由です。

 私の展望を聞いて、又吉さんはそれを支持してくれました。さらにこんなアドバイスまで添えて。

「木村さんは本を作れる人にもなっといたほうがいいと思いますよ」

 この言葉が予言のように私を動かしていくことを、けれどそのときは、想像さえしていませんでした。2019年、夏の終わりのことでした。

 同じ頃。蔦屋書店企画室の佐伯将さんと出会えたことが、新しい挑戦に踏み出す契機になりました。

「その本がその場所にあること」の奇跡を企画にして、全国いろんな場所で試していきたいんです。

 ライターの瀧井朝世さんが開いてくれた食事会で私が話した展望を、佐伯さんは覚えていてくれました。そして数カ月後、ひとつのチャンスを与えてくれたのです。

 それが、「羽田空港 蔦屋書店」オープンの目玉になるような企画の依頼でした。

 羽田空港第2ターミナル、店内から飛行機の滑走路を望めるロケーション。「日本の手土産」をコンセプトにした、日本文化の思想・文脈を理解できる品揃え……。2019年12月5日。「羽田空港 蔦屋書店」店長・横手奎祐さんのプレゼンテーションを聞きながら、資料を目で追っていると、とりわけ光ってみえる文字がありました。

別冊文藝春秋からうまれた本

別冊文藝春秋 電子版31号(2020年5月号)
文藝春秋・編

発売日:2020年04月20日

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