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木村綾子「その本が、その場所にあること」――これからの「書店発」企画の可能性

木村綾子「その本が、その場所にあること」――これからの「書店発」企画の可能性

別冊文藝春秋

電子版31号

出典 : #別冊文藝春秋
ジャンル : #小説

 最初に企画したイベントのことは、いまでも鮮明に覚えています。

 2012年9月9日。Dragon Ashのドラマー・桜井誠さん著『桜井食堂 パスタ編』刊行記念。

 まだ作家さんとも出版社ともほとんどご縁のなかった私に、最初に力を貸してくれたのは、20代前半から公私ともに親しくしていた、頼もしいひとりの友人でした。

「やるのはいいけど、それって木村も俺のことを全力で楽しませてくれるって思っといていいんだよね?」

 そのときの彼の挑発的な笑顔には、見覚えがありました。ライブステージに登場した瞬間、観客を見渡しながら浮かべる、本気度を確かめるときの表情。やってやろうと火が付きました。

 イベント当日は、本屋にカセットコンロを持ち込んで簡易式のキッチンを設置。2時間ひたすらパスタを作ってもらって、出来たそばからお客さんに振る舞うというイベントを企画しました。

 Dragon Ashのライブには行ったことがあるけれど、彼の料理を食べたことのあるファンは稀なはず。そしてトークが不安だと言っていた桜井くん、パフォーマンスなら何より得意なジャンルではないか! 間を埋めるための言葉なんていらない。感覚を共有し合ってきた彼らの蜜月を信じればいい。

 そんな狙いは的中し、チケットは即完。当日は大盛況。

「本屋に来たらキッチン出来ててマジかってなったわ!」と彼にはいまでも笑われますが、本屋という概念にとらわれずに発想することの楽しさ、それを面白がってくれる仲間を得た喜びは、私に自信を与えてくれました。

 刊行記念以外では、「即興小説バトル」というイベントを企画したこともあります。

 小説は、「本」という形になって初めて私たちの元に届けられる以上、その過程を知ることはできません。どんなふうに書き始め、続きに迷い、完成させるのか。それはいわば作家にとっての聖域です。けれどもし、創作の現場に立ちあうことができたなら……。「即興小説バトル」は、そんなひらめきから生まれました。

 B&Bのご近所に、小説家の藤谷治さんが経営する「フィクショネス」という書店がありました。そこで開かれていた読書会の帰り、藤谷さんと歌人の東直子さんとでご飯を食べに行ったとき、アイデアを打ち明けたのが始まりです。

 事前にお客さんから集めたキーワードをテーマに、ふたりには即興で小説を書いてもらいます。制限時間は60分。その後はアフタートーク。どうですか?

別冊文藝春秋からうまれた本

別冊文藝春秋 電子版31号(2020年5月号)
文藝春秋・編

発売日:2020年04月20日

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