小説を書くという行為は、ただ単に物語世界に起こったことをそのまま描写すればいいというものではないと私は考えています。読み手への情報を出す順番の取捨選択は作者にゆだねられており、それを一歩間違えると、とても面白くなるはずだった要素すら一瞬でゴミと化すわけです。これは小説単体だけではなく、シリーズものの発表順序も同じです。今この時にそれを出すことに意味がある、あるいは今しか出せない、などという意図によって、その短編は選ばれて皆さんの前に出されています。
と、書いた直後ではあるのですが、今回は「楽しいの書きたーい!」という作者の気分も題材の選定に大きく関わっていたことをここに白状いたします。まさかのラブコメ初挑戦です。題名は「ちはやのだんまり」。タイトルに出張っているのは千早ですが、明留が大活躍します。本当に気楽に読める短編ですので、もしそういうのが読みたい気分でいらっしゃったら、どうか手に取って頂ければ幸いです。
阿部智里(あべ・ちさと) 1991年群馬県生まれ。2012年早稲田大学文化構想学部在学中、史上最年少の20歳で松本清張賞を受賞。17年早稲田大学大学院文学研究科修士課程修了。デビュー作から続く著書「八咫烏シリーズ」は累計130万部を越える大ベストセラーに。松崎夏未氏が『烏に単は似合わない』をWEB&アプリ「コミックDAYS」(講談社)ほかで漫画連載。19年『発現』(NHK出版)刊行。現在は「八咫烏シリーズ」第2部『楽園の烏』を執筆中。
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