岸田 たしかに、そのとおりですね。
佐渡島 村上さんにとっては、お父さんを理解するためには、戦争の話を知るのがいちばんだった。それで猫を棄てたときのお父さんの表情も説明がついた。だけど、その理解の仕方が本当に正しいのかどうかは、誰にもわからない。
岸田 人と人は、本当の意味でわかりあえないかもしれない。だからこそ、作家になった私は、村上さんの文章を書くのは自分を癒やすためだ、という考えを忘れてはいけない気がしました。
佐渡島 お父さんと向き合った文章を書いた村上さんが、この次にどんな小説を書くのかが、僕はより楽しみになった。村上さんの作品をずっと読んできた人も、『猫を棄てる』を読んでからもう一度過去の作品を読むと、村上さんがずっと書こうとしているテーマへの理解が深まって、面白いのではないかと思う。『ねじまき鳥クロニクル』は、特に読み直したいですね。
(構成 岸田奈美)
佐渡島庸平(さどしま・ようへい)
編集者・株式会社コルク代表取締役社長。1979年生まれ。思春期を南アフリカ共和国で過ごす。大学卒業後、講談社に入社し、マンガ編集者として、井上雄彦『バガボンド』、三田紀房『ドラゴン桜』、安野モヨコ『働きマン』、小山宙哉『宇宙兄弟』などを担当。また伊坂幸太郎『モダンタイムス』、平野啓一郎『空白を満たしなさい』など、小説の連載を担当する。2012年、作家のエージェント会社、株式会社コルクを立ち上げる。
岸田奈美 (きしだ・なみ)
作家。1991年生まれ。神戸市出身。ユニバーサルデザインのコンサルティングを行う株式会社ミライロに大学時代から入社。車いすユーザーの母、ダウン症の弟をテーマにしたエッセイが、「note」で話題になり、フォロワーは3万を超えている。「小説現代」で『2億パーセント大丈夫』、「ほぼ日刊イトイ新聞」で『いなくならない父のこと。』を連載中。コルク所属。https://kishidanami.com/
「#猫を棄てる感想文」コンテストについては、「文藝春秋digital」の募集ページをご覧ください。
また、感想文は「村上春樹『猫を棄てる』みんなの感想文」で、まとめて読むことができます。
-
村上春樹『猫を棄てる』みんなの感想文(5)風はいつか雨になるし、親は子どもに傷を託す
2020.06.03書評 -
村上春樹『猫を棄てる』みんなの感想文(4)木に登ったままの猫と帰って来た猫
2020.05.29書評 -
村上春樹『猫を棄てる』みんなの感想文(3)村上春樹を巡る父との思い出
2020.05.22書評 -
村上春樹『猫を棄てる』みんなの感想文(2)父に棄てられた父が娘にも棄てられまいと必死だった愛
2020.05.15書評 -
村上春樹『猫を棄てる』みんなの感想文(1)マイ・ルーツを知りたくないか?
2020.05.08書評
-
『皇后は闘うことにした』林真理子・著
ただいまこちらの本をプレゼントしております。奮ってご応募ください。
応募期間 2024/11/29~2024/12/06 賞品 『皇后は闘うことにした』林真理子・著 5名様 ※プレゼントの応募には、本の話メールマガジンの登録が必要です。