人と人は、家族であってもわかりあえないのか
岸田 『猫を棄てる』でわたしが一番好きなシーンは、さっき紹介した〈考え方や、世界の見方は~〉です。佐渡島さんは?
佐渡島 やっぱり、13ページの、棄てた猫が家へ戻ってきたときのお父さんの描写です。呆然としていたお父さんが、やがて感心した表情に変わり、最後にほっとした顔になるっていうところ。あの文章は、随一の作家による最高の文章だと思いました。
岸田 わかります。村上さんのお父さんの人柄がものすごく伝わってきますよね。
佐渡島 村上さんが、お父さんについて、シンプルな言葉で正確に伝えたい、っていう強い気持ちで言葉を選んでいることがすごく伝わってきました。
岸田 村上さんとお父さんとの関係をじっくり読んだことで、佐渡島さん自身が息子さんになにを語り、なにを残すかって考えたりしました?
佐渡島 すごく考えた!
岸田 息子さんとどんなことを語ろうと?
佐渡島 それが、息子と語るってすごく難しい。まず、下の子は4歳だからまだ自分の思いをくわしく語れるほどの言葉を持ってない。上の子は9歳だから、俺は語りあいたいんだけど、息子は語りたくないらしくて(笑)。
岸田 えっ!
佐渡島 長男は、語り合わないと僕がわからないっていう状態に怒ってしまう。どういう意味、もっと聞かせてよって言ったら「なんでパパは言わないとわかんないの。見てたらわかるでしょ」って。
岸田 あ……わたしもなんか、同じようなことを父に言った気がします(笑)。
佐渡島 家族っていちばん近くにいるのに、いちばんわかりあえない存在かもしれないなって思ってます。
岸田 でも大人になったら、腹を割って話せるようになるんじゃ?
佐渡島 いやあ。家を出て、正月やお盆の数日だけ帰っても、深い話はほとんどする時間はとれない。そもそも、なにを、どこから語り合えばお互いを理解できるのかもわからない。果たしてそれが人生観みたいな大きな話なのか、昨日あったことみたいに小さな話なのか。
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