そこで登場したのが、アン・ライス『夜明けのヴァンパイア』(七六年)である。悩める美青年吸血鬼だ。退廃的でお耽美(たんび)なBL系吸血鬼像。このニュータイプのおかげで、今日ではヴァンパイアというと、恐怖のモンスターより憂いに満ちた美青年を思い浮かべる若い人が多い。先にあげたスウェーデン産ホラー『MORSE──モールス』(二〇〇四年)もそうした新種の吸血鬼ものである(こちらの主要キャラは少年と少女だが)。あるいは映画でもおなじみのYA小説『トワイライト』や人気TVドラマ『トゥルーブラッド』に登場するような吸血鬼一族。
といった、ニュータイプ・ヴァンパイアの話はさておき、『呪われた町』がモダンホラー史上、吸血鬼小説におけるメルクマール的な作品であることはまちがいない。当然、本文にはそれまでの吸血鬼作品への言及が散見されるが、とりわけ影響を受けているのは、『吸血鬼ドラキュラ』は言うまでもなく、キングが敬愛してやまないリチャード・マシスンが五四年に刊行した吸血鬼百科全書小説『アイ・アム・レジェンド(地球最後の男)』(映画化同タイトル)だ。
同様にプロットやストーリー展開、アイデアのインスピレーション源にかなりなっている作品が、五五年にジャック・フィニイが発表したSF『盗まれた街』(映画化『ボディ・スナッチャー』)である。
『盗まれた街』は〈外宇宙からの侵略〉ものの古典で、作中に登場するエイリアンを吸血鬼に変換したら、ほとんど『呪われた町』である。どちらもエイリアンや吸血鬼に変化させられるという現象をメタファーにして、順応性・協調性・画一性・個別性の剥奪といった恐怖を描いている。『盗まれた街』を下敷きにしている『呪われた町』、なかなかよくできた邦題だ。