- 2020.06.15
- 書評
『呪われた町』こそ、御大キングの真正(神聖)処女長編だ!
文:風間 賢二 (文芸評論家)
『呪われた町 上 下』(スティーヴン・キング)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
そこで登場したのが、アン・ライス『夜明けのヴァンパイア』(七六年)である。悩める美青年吸血鬼だ。退廃的でお耽美(たんび)なBL系吸血鬼像。このニュータイプのおかげで、今日ではヴァンパイアというと、恐怖のモンスターより憂いに満ちた美青年を思い浮かべる若い人が多い。先にあげたスウェーデン産ホラー『MORSE──モールス』(二〇〇四年)もそうした新種の吸血鬼ものである(こちらの主要キャラは少年と少女だが)。あるいは映画でもおなじみのYA小説『トワイライト』や人気TVドラマ『トゥルーブラッド』に登場するような吸血鬼一族。
といった、ニュータイプ・ヴァンパイアの話はさておき、『呪われた町』がモダンホラー史上、吸血鬼小説におけるメルクマール的な作品であることはまちがいない。当然、本文にはそれまでの吸血鬼作品への言及が散見されるが、とりわけ影響を受けているのは、『吸血鬼ドラキュラ』は言うまでもなく、キングが敬愛してやまないリチャード・マシスンが五四年に刊行した吸血鬼百科全書小説『アイ・アム・レジェンド(地球最後の男)』(映画化同タイトル)だ。
同様にプロットやストーリー展開、アイデアのインスピレーション源にかなりなっている作品が、五五年にジャック・フィニイが発表したSF『盗まれた街』(映画化『ボディ・スナッチャー』)である。
『盗まれた街』は〈外宇宙からの侵略〉ものの古典で、作中に登場するエイリアンを吸血鬼に変換したら、ほとんど『呪われた町』である。どちらもエイリアンや吸血鬼に変化させられるという現象をメタファーにして、順応性・協調性・画一性・個別性の剥奪といった恐怖を描いている。『盗まれた街』を下敷きにしている『呪われた町』、なかなかよくできた邦題だ。
-
忌まわしいものがこっちにやってくる――恐怖の帝王スティーヴン・キング、久々の怪奇小説大作『心霊電流』ほか
2019.01.25発売情報 -
巨匠が描く身近な恐怖とリアリティ
2018.11.30書評 -
キングを読むならまずはコレ!
2018.05.29書評 -
〈恐怖の帝王〉スティーヴン・キング、その続編にして集大成にして新境地!
2018.01.17書評 -
タイムトラベル・ロマンスの歴史に残る名作
2016.10.18書評
-
『男女最終戦争』石田衣良・著
ただいまこちらの本をプレゼントしております。奮ってご応募ください。
応募期間 2024/9/30~2024/10/7 賞品 『男女最終戦争』石田衣良・著 5名様 ※プレゼントの応募には、本の話メールマガジンの登録が必要です。