- 2020.07.16
- インタビュー・対談
<大前粟生インタビュー>現実世界で覚える息苦しさを、フィクションの中で共有したかった
別冊文藝春秋
『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』(大前 粟生/河出書房新社)
なんて愛おしい本なのだろう。自らのジェンダーに悩み社会との距離に傷つく、生きづらい若者たちの物語は、あまりに誠実で、どこまでも優しい。
執筆のきっかけは「全身全霊で女性差別に傷つく男の子の話を書いてください」という編集者からのリクエストだった。
表題作では、ぬいぐるみに胸の内を語りかけるサークル「ぬいサー」に所属する大学生たちの人間模様が描かれる。ひと一倍感受性が豊かで、日常のなかに潜む同調圧力やジェンダーの問題に胸を痛めずにはいられない主人公の七森剛志と麦戸美海子。ふたりとは反対に、そうした事柄に傷つきたくないと感じている同級生の白城ゆい。七森は感性の近い「麦戸ちゃん」との時間を何より大切にしているが、彼女が大学に来られなくなっている間に白城と付き合うことになる。それぞれに相手を思いやりながらも、自らの内に灯る感情に振り回され、時に相手を傷つけてしまう三人の関係性が絶妙だ。
「最初に七森の人物造形が浮かび、彼と通じる存在として麦戸ちゃんが生まれました。でも、ふたりだけでは共依存っぽくなってしまうので、状況を客観的に見られるひととして、白城が存在しています」
「男性」「女性」といった属性に息苦しさを感じる七森たちと、ともすれば女性差別的な思想を内面化しているように見える白城。現実世界にも存在し得るであろう溝を感じさせる両者だが、彼らは何が違うのだろうか。
「ひどいと感じるニュースが多い一方で、いまはSNSや本などで『生きづらくてもいいんだよ』というメッセージもまた受け取ることができます。そうした下地もあって、七森たちは、社会のしんどさから逃れることを諦めなくてもいいんだという信念を持つことができている。他方、白城は、それが社会というものなら、理想を掲げてしんどい思いをするより、順応してしまったほうが思い悩まずにすむのでいいと考えているところがある」
七森は麦戸ちゃんと過ごすうちに男性が潜在的に抱える“加害者性”に気が付き、自らもそちら側にいるのだという事実に激しく動揺する。
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