インタビューほか

<高丘哲次インタビュー>世の中で一番役に立たないものからリアルな手触りを立ち上がらせたかった

別冊文藝春秋

『約束の果て 黒と紫の国』(高丘 哲次/新潮社)

『約束の果て 黒と紫の国』(高丘 哲次/河出書房新社)

『南朱列国演義』は、壙国の第四三二〇一王子の真气が、祭祀を行うため亜南国へ赴き、女王の瑤花と出会うところから始まる。一方『歴世神王拾記』は、のちに壙国の王となる螞九なる人物の十三歳のときの記録から書き起こされる。二つの物語が、どのような道をたどって青銅の装身具へと至るのか。その道行が実に楽しい。高丘さんの、架空の世界をありありと生み出す想像力と、緻密な構成で歴史の「真実」を描き出す筆力が遺憾なく発揮されていて、ファンタジー好きにはたまらない。

 こうして破格なスケールを誇るデビュー作で世に出た高丘さんだが、そこまでの道のりは一筋縄ではいかなかった。そもそもの始まりは、ゲンロンの大森望SF創作講座にて「大国遊記」という短篇を書いたことだったのだが……。

「僕が人生で、ほとんど初めて書いた短篇が『大国遊記』でした。実は『約束の果て』はこれを長篇化した作品で。しかし、講座で短篇を発表したときは、ほめてくださる方もいた一方で『あなたの小説の書き方は間違っている』とまで言われまして(笑)。それもそのはずで、描写が粗く分かりづらかったり、最後に巨大生物が出てきて強引にオチをつけていたりと、たくさん問題があったんです。もちろん当時は、自分の中では面白いものが書けたと思っていたので、生意気にも反論を試みていましたが、日本ファンタジーノベル大賞の応募作について試行錯誤する中で読み返してみて、自分でもこれは確かにひどい出来だと思い至りました(笑)。自分の頭の中にある物語をうまく小説に落とし込めていなかったんですね。そこでもう一度テーマを見つめ直し、本来やりたかったことを丁寧に突き詰めてみたら『約束の果て』にたどりつきました。どこかで『大国遊記』の話はしっかり書き直したいと思っていたので、リベンジできてよかったです」


写真:新潮社提供


たかおか・てつじ 北海道函館市生まれ。国際基督教大学教養学部人文科学科卒業。同大学院博士前期課程比較文化研究科修了。「約束の果て 黒と紫の国」(受賞時「黒よりも濃い紫の国」)で日本ファンタジーノベル大賞2019を受賞。

別冊文藝春秋からうまれた本

別冊文藝春秋 電子版32号(2020年7月号)文藝春秋・編

発売日:2020年06月19日


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