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うつ病当事者でなければ書けなかった第一級のノンフィクション

うつ病当事者でなければ書けなかった第一級のノンフィクション

文:佐藤 優 (作家・元外務省主任分析官)

『うつ病九段 プロ棋士が将棋を失くした一年間』(先崎 学)

出典 : #文庫解説
ジャンル : #随筆・コミックエッセイ

『うつ病九段 プロ棋士が将棋を失くした一年間』(先崎 学)

 精神科医にとっても、うつ病患者の自殺防止が最重要課題とのことだ。〈「自殺」ということばをなにげなく出すと、兄の顔がピクッと反応するのだ。会話の中になにげなく挟んだだけでも顔つきが変わる。そのことを問うと、兄はしみじみと語りだした。/「うつ病患者というのは、本当に簡単に死んでしまうんだ。それはよく分かるだろ」/私は七月にホームに上がるのが恐ろしかったことを思い出しゾッとした。うつ病とは、辛いから死にたくなるというのもたしかだが、症状そのものが死にたくなるという病気なのである。そんなことをいうと、兄は吐き出すように続けた。/「うつ病は必ず治る病気なんだ。必ず治る。人間は不思議なことに誰でもうつ病になるけど、不思議なことにそれを治す自然治癒力を誰でも持っている。だから、絶対に自殺だけはいけない。死んでしまったらすべて終わりなんだ。だいたい残された家族がどんなに辛い思いをするか」/(中略)「修羅場をくぐったまともな精神科医というのは、自殺ということばを聞いただけでも身の毛が逆立つものなんだ。究極的にいえば、精神科医というのは患者を自殺させないというためだけにいるんだ」〉。

うつ病九段
プロ棋士が将棋を失くした一年間
先崎学

定価:本体600円+税発売日:2020年07月08日

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