「精神科医というのは患者を自殺させないというためだけにいるんだ」という先崎氏の兄の言葉がとても重要だ。私の学生時代の友人、外務省時代の同僚の中で、自殺衝動を克服できない人もいた。主治医は全力を尽くしたと思うが、残念な結果になってしまった。自然治癒力は誰にでも備わっているのであろうが、その力がいつ、どのような形で現れるかは千差万別なのであろう。私としても、これらの人の自殺を防ぐためにもっと出来ることがあったのではないかと悔やんでいる。
自殺には至らないまでも、うつ病が発症して人生が変わってしまった友人もいる。私が浦和高校の文芸部で最も親しくしていた友人は、難関大学の工学系大学院を修了した後、大企業の研究所で技師となり、業界で評価される成果をいくつもあげたが、就職後、15年目頃にうつ病を発症し、文字通り、ベッドから起き上がれなくなった。完治するのに10年かかった。それから10年近く経つが、定職にはついていない。「佐藤の本を1日20~30頁読むのがやっとだが、これでも以前よりはだいぶ進歩した」と伝えられ、胸が熱くなった。
外務省時代の同僚は、語学も抜群にでき、情報収集能力も卓越していたが、あるときうつ病を発症して、ストレスのある仕事はまったくできなくなってしまった。日々、死の誘惑と闘っていたのだと思う。私はそばにいながら、同僚の気持ちを十分に理解しようとする余裕がなかった。このことを今でも後悔している。この同僚は筆者が鈴木宗男事件に連座し、東京地方検察庁特別捜査部に逮捕された後も、私を攻撃することがなかった。当時の外務省幹部からは「佐藤優を批判せよ」と圧力がかけられたが、抵抗した。うつ病が完治しない状況でこの同僚は、私への友情を貫いてくれた。とても感謝している。この同僚は、うつ病から抜け出し、外務省幹部をつとめている。近く特命全権大使になるであろう。本書を読み進めているうちに、この同僚と先崎氏が重なって映るようになった。
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