犯罪被害者支援がライフワーク
「弁護士はみんな、死刑制度に反対している」
このように考えている人は多いのではないでしょうか。
実際、日本弁護士連合会(日弁連)は、会をあげて死刑制度廃止運動を行っていますし、日弁連会長は死刑が執行される度に、それに抗議する声明を出しています。ですから、そう捉えられるのも仕方ないのかもしれません。
しかし、私たちは「死刑制度に賛成する弁護士」です。私たちは凶悪な事件に遭われた被害者のご遺族に向き合うなかで、その必要性を実感しています。
ではなぜ、「弁護士だから死刑制度に反対している」という誤解が生まれるのでしょうか。
あまり知られていませんが、弁護士は法律上、日弁連に会員登録しないと活動することができません。つまり、弁護士は全員、日弁連の会員なのです。そのため、弁護士個人としては死刑に賛成であるけれども、所属している日弁連という組織は死刑に反対しているというねじれが生じます。そして、冒頭でも述べたように、日弁連が声高に死刑反対を唱えているので、そういったイメージが出来上がってしまうのです。
私たちが日弁連に登録する弁護士でありながら、日弁連の意に反し、死刑制度に賛成するのは、犯罪被害者の支援をライフワークとしているからです。これまでに多くの被害者やそのご遺族の置かれた惨状を目の当たりにするとともに、死刑判決を受けるような加害者の擁護しようのない現実を知り、死刑制度の必要性を痛感してきました。
そこで私たちは、犯罪被害者支援弁護士フォーラム(VSフォーラム)という弁護士有志の団体を作り、活動しています(https://www.vs-forum.jp/)。「VS」というのは、「victim support」の略で、「victim」は犯罪などの被害者、「support」は支えを意味します。
VSフォーラム自体は2010年に、犯罪被害者の権利の拡充、被害者のための制度の実践、研究、改善策の提言などを目的として結成されたのですが、その前から、VSフォーラムのメンバーは多くの死刑相当事件の被害者支援を行ってきました。
たとえば、数々の事件を引き起こしたオウム真理教事件、大阪教育大学附属池田小学校で小学生ら23名が死傷した事件、インターネット上の「闇の職業安定所」で知り合った男3名が通りすがりの女性を拉致して殺害した闇サイト殺人事件などがあります。
結成後も、強盗罪などを犯して刑務所に服役し、出所してわずか1カ月半の男が千葉大学の女子学生を放火のうえ殺害した事件、埼玉県熊谷市でペルー人が無差別に6名を殺害した事件、神奈川県相模原市の障害者施設で19名が殺害され26名が重軽傷を負った事件、新潟県新潟市で帰宅途中の小学生が殺害され遺体が線路に遺棄された事件などの被害者支援を積極的に行っています。
被害者は単なる「証拠品」
実は、私たちのように被害者側の代理人をする弁護士はごく少数です。日弁連の中にあっては、「絶滅危惧種」と言っても過言ではありません。
本来、理不尽な目に遭った被害者を救うのが「正義の味方」ではないか、と多くの国民が感じているはずですが、それとは反対にほとんどの弁護士は加害者の味方です。その理由は、現在の憲法や刑法、刑事訴訟法などの成り立ちと関わりがあります。
憲法は、国のあり方や国民の権利と義務などを定めた最高法規です。現在の日本国憲法の条文は全部で103条ありますが、そのなかには、「弁護人依頼権」「黙秘権」などの加害者の権利がたくさん定められています。これは、戦前の明治憲法下で、自白を得る目的で拷問が行われ、冤罪が生じたことなどが根拠となっています。
しかし、憲法には「被害者」という言葉は一度も出てきません。つまり、被害者は憲法上の権利が保障されていないのです。それどころか、被害者はつい最近まで全く権利を持たない、単なる「証拠品」として扱われ、取り調べの対象でしかありませんでした。
しかも、1990年2月20日に出された最高裁判決は、「刑事司法は、公の秩序維持のために行われるものであり、犯罪被害者の受ける利益は反射的な利益に過ぎず、法律上保護される利益は認められない」と判示しました。「法律上保護される利益はない」と言って、被害者を刑事司法手続から完全に排除してしまったのです。
-
『赤毛のアン論』松本侑子・著
ただいまこちらの本をプレゼントしております。奮ってご応募ください。
応募期間 2024/11/20~2024/11/28 賞品 『赤毛のアン論』松本侑子・著 5名様 ※プレゼントの応募には、本の話メールマガジンの登録が必要です。