――パイロットのメンタルの問題にも関わりそうです。
そこが大変なんです。彼らは自分の感覚というものを非常に大事にしていて、ほとんどの場合は、その感覚が正しい。それをあえて捨てて、計器を信じろと言われても、違和感があるらしいです。ですから、バーティゴに陥ったパイロットはみんな、ものすごく気持ち悪いそうです。自分が乗っている感覚と、計器の表示が違っているので。
自分は真っ直ぐ飛んでいるつもりなのに、計器では傾いている。そういった状況は嫌でしょうね。
――まるでアスリートのようですね。
超音速や重力の9倍もの荷重をかけて空を飛ぶ戦闘機パイロットたちは、まさに極限の状況ですからね。
――以前、未須本さんは航空機の世界にいらっしゃったそうですが、実際どういう仕事をされていたのでしょうか。
もともとは大手メーカーで、航空機の開発の仕事をしていました。開発の流れにおいて、一番上流のところは、飛行機の形を決めていくところなんですが、私はまだ若手だったので、一番やりたい「この部分」にはなかなか携わらせてもらえませんでした。ほぼ飛行機の形が決まった状態で、風洞試験つまり飛行機の模型を気流のなかに入れて、データをとったり、解析をしたり。それを使って性能計算をしたり。空力設計の部門で、そういった仕事をしていました。
――小さい頃から飛行機はお好きだったんですか。
物心ついたときから、飛行機の設計には携わりたいと思っていました。
小説では、自分が実際の仕事ではやれなかった部分も含めて、描きたいと思っています。
――今作『音速の刃』には、未須本さんの“エンジニアとしての理想”も詰まっているのでしょうか。
はい。今回の主人公の一人である若いエンジニアは、入社してすぐに戦闘機の改修・設計に携わることができた。次はビジネスジェット開発を任されることになります。戦闘機と民間機、双方の開発に携われるというのは、「航空機エンジニアとしての理想形」だと思うんです。
――人間の物語、お仕事小説としても楽しめますよね。
私としてはそちらのほうを描こうと意識していました。特に飛行機の話は、今まで書かれているものは古今東西、小説もドラマも映画も、ほとんどがユーザーの話、つまり操縦する人の話しかでてこない。しかもなぜか始めから、ものすごく上手く操縦できる。その理由が一言「天才だから」で済んでしまう。その後、ストーリーの流れで、いとも簡単に飛行機が破壊されてしまって、どこの誰が作ったか分からないけれど、新しい機体がポンと出てくる。
でも実際には、「新しい機体」が完成するまでには、エンジニアたちのとてつもない苦労がある。そこの部分が描かれた物語が少ないんですね。開発に携わったエンジニアたちの試行錯誤はとても面白いので、その過程を描きたかったんです。
――専門的な話も入っていますから、飛行機好きのマニアの心も打つと思います。
みなさん、興味があるところは、それぞれだと思うのですが、航空機開発のプロセスにおいて、普段は表に出てこない部分も描いていますので、かなり面白いと感じていただけると思っています。
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