――(民間機は)エンジニアにとってかなり夢のある仕事とも言えそうです。
航空エンジニアにとっての夢はふたつあります。ひとつは飛行機として、どれだけ極限までの飛行を実現できるか。例えばスピードが速い、ものすごく機動力があるとか。自衛隊の戦闘機や練習機では、それを突き詰めることができます。
もうひとつは、自分たちの作ったものが飛ぶ姿を世界中で見たい。そういう意味ではふたつ違う夢があると思います。
――物語の冒頭で、最新鋭ステルス戦闘機F-35が、訓練中に太平洋に墜落する事故が描かれます。こちらは実際に2019年4月に起きた事件に重なります。
自衛隊機の事故原因というのは、本当のところはなかなか表に出てこない面があると思います。ですから、事故原因の真相を仮説として提案し、問題提起をして、それから四星工業という架空の会社の「航空機開発」のストーリーへとつなげて、隠された「事故の真相」をめぐる、エンジニアたちの戦いへと展開していきます。
――本書では、F-35の事故の表向きの理由が、パイロットが「バーティゴ」に陥っていた、と書かれています。「バーティゴ」というのは、航空機の事故の要因として、よくあるものなのでしょうか。どんな現象なのでしょうか。
パイロットの世界では、バーティゴはポピュラーなものです。
特に様々な姿勢で飛行する戦闘機のパイロットは、ほとんどがバーティゴを経験していると思います。
旅客機の場合は夜間、天気の悪いときに飛ぶこともあるんですが、基本的には真っ直ぐ飛ぶんですね。要するに、傾いたり上向いたり下向いたりということはほとんどない。そうすると、周りの視界が悪くてもまあまあ、計器で表示されている飛行機の姿勢と、自分が認識している姿勢というのが一致している。
ところが戦闘機の場合、なにかのはずみで大きく傾いた姿勢のまま雲のなかに突っ込んじゃったとか、姿勢がめまぐるしく変化する戦闘(訓練)中とか、自分がどういう状態なのかがぱっと分からなくなる。そのときに、計器の表示と自分の体の感覚にずれが生じることがある。それが、バーティゴという現象です。
飛行中に、こうなってしまった場合は、「自分の感覚ではなく、計器を信じなさい」というのが今の指導の仕方です。
――「今の」指導、ということは、昔はバーティゴに関して違う指導がなされていたのでしょうか。
大昔、まだバーティゴというものが理解されていない時代は、対応策もありませんでした。今は、バーティゴという現象についてかなり解明されていますから、「バーティゴに陥ったときは計器を信じましょう」ということになっていますね。
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