日常のあり方を大きく変えてしまったコロナウイルス。
感染者の数やニュースに一喜一憂せざるをえない、慌ただしい状況が続いているが、
私たちはどのように心を整理し、生活していけば良いのか――。
2015年のデビュー以来、卓抜した想像力で数多くの話題作を発表してきたSF作家の小川哲さんが、宗教の垣根を越えてグローバルに活動し、現代ならではの智慧で人々の根源的な不安と向き合いたいと考える京都の禅寺「妙心寺退蔵院」の僧侶・松山大耕さんと語り合う。
Twitterライブで放送した内容のダイジェストを活字化してお届けします。
全編の動画はコチラ→https://youtu.be/ZUlultnc9Jo
ダイジェスト&後日談の音声はコチラ→https://voicy.jp/channel/1101/91015
「どうにもならないこと」に直面したときは
松山 最近、「リモート修学旅行」と称して、オンラインで中学生、高校生のみなさんのお悩み相談会をやったんです。なにせいまは、学校の教科書にも書いてない、ご両親にだって解決の仕方がわからないことばかり起きてる状況です。
私だけでは対応できないかもしれないと思ったので、リーマンショックのときにリーマンブラザーズで働いてた私の友人も呼んで。
小川 まさに大きなショックの時に、渦中にいらした方にも加わってもらって。
松山 そうです、荒波に揉まれた経験がある人にも参加してもらって。学校の授業って、例えばアスリートを呼んで、「自分はこうやって努力して成功しました」とか「夢は見るもんじゃなくて叶えるもんだ」みたいなメッセージをもらうことが多いじゃないですか。でも自分がどれだけ一生懸命やってても、現実には不可抗力なこともあるわけです。突然大波に呑まれるみたいな、そういうこともある。そういうときにどうしたらいいのかというのは、あまり話として出てこないんですよね。なので、そうした体験を持つ人の話は貴重だろうと。
私は、宗教の基本的な役割は「不安をなくす」ことだと思っているんです。だからここでも、お悩みを聞いて、色々な人と繋げて、「悩んでいるのは自分だけじゃないんだ」「こういうときにはこういう心がけをしたらいいんだ」と気づいてもらえるような機会にできたらいいなと思っていました。
小川 僕も、松山さんがかつてお出しになったお悩み相談本を読んだのですが、面白いなと思ったのは、ある悩みに対して「こうするといいですよ」とか「こうすると物事は解決しますよ」という答えの他に、「それは悩みじゃないんですよ」「そもそも気にしても答えが出ないことなんですよ」という答え方をされていたことなんです。
例えば「コロナで学校の行事がなくなっちゃった」と嘆き、悩んでいる子に対して、じゃあサッカーの試合ができるようにしてあげよう、運動会ができるようにしてあげよう、なんて、大人にだってできない。むしろ、嘆き悩んでいるその子に、自分の努力によって解決できない問題が立ちはだかったときにそれとどう向き合うか、悩みの一段階深いところに向けて答えていると思いました。
松山 自分が悩んでもどうしようもないことに対して悩んでる方もたくさんおられます。身近な例で言うと、「明日の運動会、雨が降ったらどうしよう」と悩む人がいる。これはいくら悩んでもどうしようもないことですよね。例えばダイエットをしていて「このご飯を食べるか、食べないか」という場合、それは自分で決断できるし、なんとかなる。でも天気とか、天災に対しては、備えはできるにしても、いつ来るかというのは誰にも分からない。自分の努力でどうにもならないことに対する漠然とした不安を抱えてしまったときにどうするか。
小川 わかります(笑)。僕は今年の初めに直木賞の候補になったのですが、選考会の前日、柄にもなく緊張して。でも、賞の結果は選考委員の先生が決めることですから、僕が緊張したところで意味がないんですよね。大学入試や大事なスポーツの試合の前に緊張をコントロールするというのとは話が違う。
松山 まさに、大事なのは心の持ち方のほうなんですよね。最近私は医学系の学会によく呼んでいただくのですが、先日、循環器内科学会にお邪魔したときも心の持ち方が大きなトピックになっていて。例えば、“薬への依存”という問題があります。不眠の人に睡眠薬を処方すると、「飲んだけど寝られない」という患者さんが出てくる。そこでさらに強い薬を処方するけれども、それでも眠れないという。どんどん総量が増えていって、まさに依存になっていくわけですよね。でもちょっと待って、と。昼間診察に来た患者さんに、「夜眠れない分いま眠いですか?」と訊くと、「いえ、眠くないです」と答えるそうなんです。じゃあ、それでいいじゃないですか、と。結局薬を飲む飲まない、効く効かない、より、実際にはどうなんだ、というのが大事であると。
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