現実をより先鋭化して作品にする小川さんと、幻想を使って現実世界の現身(うつしみ)をつくり出す彩瀬さん。手法が異なる二人が互いに感じているという共通点とは? 謎多き父親のこと、十代で出会った村上春樹作品をはじめとする鮮烈な小説たち……作家としての現在地をつくった記憶についてたっぷりうかがいました。
「夢中になれない自分」がいつもコンプレックスだった
彩瀬 『ゲームの王国』では、クメール・ルージュが理想的な世界を作ろうとしたこともそうですが、登場人物それぞれが何かに固着し、その対象と戯れながら生きてるじゃないですか。その、それぞれがそれぞれにしか遊べないゲームをしながら生きている姿と、『ゲームの王国』というタイトルがすごくしっくりくるなと感じました。
小川 ありがとうございます。僕はいつも「その人にとっての神は何か」ということから考え始めます。人間って必ず何かにアディクトしていて、究極的には何にアディクトするかが人生を決めると思っているので。僕がつい宗教の話を書いてしまうのも、それです。宗教の場合、信じていないという人は、その形では神様というものを信じていないけれど、別の形、別のものについては無批判に受け入れていたりしますよね。
彩瀬 うん、そうですね。私はそういう「自覚的なアディクション」から距離を持とうとしている人とか、何かを信じていないということについ共感してしまいます。それってやっぱりドライなのかもしれないけど。
小川 でも、作家でいるってそういうことですよね。僕は学生時代ずっと、自分が友人たちのように何かにアディクトすることができないということがつらかったんです。コンプレックスというと大げさですが、いつもちょっとしたズレを抱えているような気がしていました。
彩瀬 よくわかります。私も、朝起きるといつも頭の中に荒野が広がっている――そんな時期があって。ああ、自分は何も信じていないんだな、そんなふうに感じていました。
小川 そう、何というか……たとえば恋愛にしても、みんなみたいに熱中できない。状況に対して、いつもメタ視点をもってしまう。どこか無神論者に近い感覚をもって生きているような気がして。でも、その感覚は、小説を書くのには必要なんですよ。
彩瀬 わかります。私はそれを「感情の器がいっぱいにならない状態」と捉えています。
小川 ああ、なるほど。無条件で自分の感情を満たしてくれるものは存在しなくて、自ら努力してその器に何か入れていかないとカラカラに乾いていってしまう、というような状態ですね。
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