司会 井浦さん演じるご主人は、子供を授かれない原因が自分であると分かりまして、特別養子縁組をしようという重要な決断をするんですが、そこに至るまでの繊細な心の動きというのは痛いほど伝わりました。どんな準備をされてきたんでしょうか?
井浦 河瀬組では、撮影がクランクインする数か月前から、特別養子縁組や不妊治療、無精子症についてなどをしっかりと学んでいく「役積み」という時間を経験させていただけるんですね。監督からのミッションを一つ一つ、一人ではなく夫婦を演じる永作さんと二人でクランクインの前から始めました。しかも河瀬組は、完全なる順撮りで、シーン1から撮ってくださる。ワンシーンワンシーンを積み重ねながら、幸せな時期と、問題が起きた時期とを演技ではなく一日一日として経験していくことで、自然と心の動きも変化していくんですね。なので、お芝居というものを意識するのではなくて、永作さんがおっしゃったように、目の前で起きていることを一つずつ丁寧に夫婦として拾いあっていきながら、起きていくことに素直に心動かすことを大切にやっていました。
司会 蒔田さん、本当に素晴らしかったです。14歳で出産してそこからどんどん落ちていくわけですが、時間の経過とともに顔つきもどんどん変わっていく芝居でした。自然体でありながら体当たりのお芝居に圧倒されました。とても大変だったと思うんですけれども、監督からどんな指示やアドバイスがありましたでしょうか?
蒔田 あんまりこういうことして、ということは言われなかったんですけど、朝斗を思う気持は絶対に忘れないで欲しいって言われました。確かに、どんなにつらくても寂しくても、朝斗がどこかにいると信じていたからひかりは何とか生活できてたんだと思います。
司会 監督は厳しい指導をすると言う話も聞きます。いま笑ったということはやっぱりそういう感じがあるんですか?
蒔田 ふとひかりが私から抜けたときに、主題歌の「アサトヒカリ」を耳元で流すとか、今までの撮影現場の写真をみせて、こういう感じだったよねと言って下さったことはありました。引き戻してくれる感じでした。
司会 永作さん、現場では監督はどんな感じなんですか。
永作 何かを要求するというよりは、無言の圧ですよね。「分かってるよね」みたいな(笑)。選択を迫られる。「私が決めていいんですか?」と思う時は、きっとみんな現場で経験していると思います。考えろということですね、分かりました一緒に探しましょうという感じで進んでいきました。
司会 井浦さんは追い込まれた思い出はありますか?
井浦 あ、常に追いこまれてました(笑)。いま皆さんがおっしゃったことは、監督が真剣に映画作りに取り込んでいるからですからね。全てのシーンが大事だからこそ、目で語ってきてくださる、言葉にせず、いまの状態が大丈夫なのかという確認を目でしてくださいます。印象的なのは、清和が無精子症で、心がズタボロになるちょっときついシーンを越えていくために、僕が撮影が終わって茫然としていると、横に座っていて下さったりして。大変なシーンを与えるからこそ、そのまま投げっぱなしではなくて、そのあとメンテナンスというかケアを必ずして下さる。だから、安心しながら全身で演じることができました。
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