司会 浅田さん、お待たせしました。中学生の蒔田さんが産んだ子供を永作さん井浦さんに届けるだけでなく、この物語の極めて重要な斡旋という役割を担っていました。『あん』に続いての河瀬組でしたが、『あん』との大きな違いなど教えていただけますか。
*映画『あん』 2015年公開。ハンセン病の元患者と、中年のどら焼き職人の交わりを描く。原作はドリアン助川。主演・樹木希林
浅田 『あん』は初めてでしたし、そこに住むまでではなかったんですね。希林さんは「ラッキイだわ美代ちゃん」(樹木希林のものまねで)と言ってました。今回は、広島の因島まで行って住まわせていただきました。
司会 浅田さんの起用を樹木希林さんからの啓示と監督はスタッフにおっしゃっていたようです。浅田さんは樹木希林さんの支えというものをどんなふうに感じてますか。
浅田 河瀬さんからこの話を頂いたとき、ちょうど希林さんが亡くなって何か月かしたときで、「希林さんが、河瀬さんに何か言ったのかしら、『美代ちゃ~ン』っていったのかしら」と思いました。だからこそ、ちゃんとしないといけないという気持が強かった。
司会 お話にありました「役積み」という、役を積み上げる準備期間を体験するということが、この河瀬組には必要になります。ロケで使用する家に撮影前から実際に住むなど、登場人物が経験することをカメラのない状態でも順番通りに経験をしていくそうです。河瀬監督の独特な演出方法ですが、キャストの皆さんも滅多にない経験をしたのではないでしょうか。ここで、キャストの皆さんに、撮影現場で一番印象に残っていることをお聞きしたいと思います。永作さん、いかがですか。
永作 役積みに関してはですね、本当にスタッフをどんどん信じられなくなっていくという(笑)。
司会 どういうことですか?
永作 「清和の誕生日だからプレゼント買ってきて」とか、急に、いろいろな指令がやってくるんです。あと、突然、一人でポツンとさせられて、役と対峙する場面を与えられるとか。この作品の中で、温泉に夫婦二人で泊まるシーンがあるんです。その前のシーンがすごく時間が押してしまって温泉につくのが遅い時間になったんですね。その日はいろいろあって泊まらない予定だったんですが、時間は押しているのに、宿についたら、まずは「お風呂入ってください」、今度は「御飯が用意できました」と言われて。そこへいくと、すごい料理が準備されていて。こんなに時間のない中で、ここもやるんだと思いました。それで撮影してないんですよ。
司会 カメラ回ってないんですよね。
永作 回っていません。どこに誰がいるかもさっぱりわかりません。スタッフも全く見えません。女将さんがやってきて「お風呂はこちら」「御飯はこちら」と。
司会 それは夫婦として生活するということですね。
永作 そうなんです。二人で「どういうことなんだろね」「ここもやるんだ」と思っているうちにどんどん時間が進んでいって……私はそのあたりで「これは罠だな」と思ったんです。「仕掛けられた」と思って。前が押していることも罠だと、「このまま泊まらせるつもりじゃない?」と。「そこまでやるか河瀬組」と思ってました。次の日に絶対に帰らないといけない用事があるのに……と思っていたら、だいぶ遅い時間になって解放されました。このくらい疑心暗鬼になるほどどのシーンもしっかり役積みがありました。
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