本の話

読者と作家を結ぶリボンのようなウェブメディア

キーワードで探す 閉じる
皆川博子と作家三人の往復書簡

皆川博子と作家三人の往復書簡

皆川 博子 ,綾辻 行人 ,須賀 しのぶ ,恩田 陸

『U』(皆川 博子)

出典 : #文庫解説
ジャンル : #小説

『U』(皆川 博子)

皆川博子様

 皆川さん(お言葉に甘えまして、先生とお呼びするのは控えますね)、お忙しい中お返事ありがとうございます。とても丁寧にお答えくださって、感激です。

 融合した理由、感嘆いたしました。たしかに単体ですと逆に難しいところはあるかもしれませんが、融合して全く新しい視点をもつ物語を紡がれる発想の転換が凄いです。塩を使われた理由も納得いたしました。歴史を点でも線でもなく、あらゆる時代・国に繋がる大きな海であるととらえていらっしゃる皆川さんだからこその、「塩」なのですね。私はどうしても線ばかり見てしまうので、大変勉強になります。

 アフメト一世、オスマン二世についても、お答えいただきありがとうございます。想像であそこまで……すごいです。光景も、映像資料があるとたしかに一気にイメージは広がるとは思うのですが、あそこまで鮮明に、空気感までリアルに伝わってくるとは(個人的に、羊の足が赤かったという描写に参りました)。歴史を舞台に人を描くとはこういうことなのだなと感銘を受けました。自分は資料にふりまわされがちなのですが、想像力が足りなすぎると痛感した次第です。

 思いもしなかったような方法で世界に光を当て、全く新しい姿を見せてくださる皆川さんの作品、これからも心から楽しみにしております。連載のお約束が二つとうかがって喜びで飛び上がりそうですが、お体はどうぞくれぐれもお大事になさってくださいませ。それにしても、これほどの大作を次々と生み出される体力と気力の強靱さ、そして知識のすさまじさには毎度驚嘆するばかりですが、いったいどこからこれほどのお力が湧いてくるのでしょうか……。

 そして私にまであたたかいお言葉ありがとうございます。いま他誌で連載しているのは戦後の野球の話なのですが、近々、「別冊文藝春秋」さんのほうで第二次大戦下の話を書くことになっております。ここで皆川さんにお伝えするのも非常に恥ずかしいのですが、主人公がまさにドイツ人とトルコ人の間に生まれた女性という設定でして……。『U』を拝読して圧倒されつつも同時に色々な回路を開いていただいたので、拙いながらもいい作品にしたいと思っております。

 このたびは、素晴らしい作品を読ませていただき、また直接いろいろとお尋ねするという幸せな機会をいただき、大変光栄でした。ありがとうございました。


須賀しのぶ様

 第二信をありがとうございました。

 WWIIを舞台に、ドイツ人とトルコ人の間に生まれた子供、というのは、新鮮な着眼点ですね。ユダヤ人との関わりは、さまざまに描かれていますが、トルコとの関わりという視点の作品は、未読です。大戦後の復興期、労働力の足りないドイツはトルコ人の労働者を大量に受け入れ、彼らはネオナチの攻撃の目標にされるなど、関係が深いですね。私はウェブで読むことができないので、紙の本にまとめられての上梓を待って、拝読します。

 私の連載の一つは、アメリカ大陸に、植民地反乱軍制圧のイギリス軍兵士として渡ったエドワード・ターナーとクラレンス・スプナー(『開かせていただき光栄です』『アルモニカ・ディアボリカ』の続きということになります)の話なのですが、独立戦争のあたりを調べていると、今ではよく知られていることですけれど、先住民に対してコロニストが何をしたか、あらためて慄然とします。かのベンジャミン・フランクリンでさえ、〈大地を耕作する者に場所を与えるため、これらの野蛮人を根絶することが神のみ旨(むね)であるならば、ラム酒こそ神の定め給うた手段であると思えないこともない。以前大西洋の沿岸地方に住んでいたインディアンは、すでに残らずこの酒のために亡びてしまったのである。〉と、自伝に記しています。東部の先住民が滅びたのは、コロニストが暴力や詐欺的取引で土地を奪い、かつてはこの土地になかった酒や伝染病を持ち込んだりしたためなのに。

 でも、自分を正義の高みに置いてコロニストを糾弾するような話は書きたくない。

 発表の場がミステリマガジンなので、一応、何らかの意味でミステリの範疇に入るものにしたい。コロニストの大地主を父とし、先住民の女性を母とする人物を登場させるつもりです。お作と、視点がどこか似通うかもしれませんね。

 お聞きかもしれませんが、転倒、骨折、手術、という高齢者の定番コースを私もたどり、リハビリ入院中ですので、今のところ、なかなか仕事に集中できませんが、物語紡ぎの中にいるのが一番楽しいので、少しずつ、考えています。

 お元気でね。

【次ページ 恩田 陸さんの手紙】

ページの先頭へ戻る