各界活躍中の言葉の名手たちが腕を振るってラヴレターに熱い想いをしたためます。 著名人たちの秘めた恋が垣間見える、名文の数々を担当編集者が解説します。
なぜ、いま、ラヴレターなのでしょうか?
2016年2月14日、ヴァレンタインデーに『ラヴレターズ』という本を文藝春秋から刊行させていただくことになりました。
作家、女優、音楽家、画家、タレント、映画監督など。ラヴレターがぜんぶで26通。空前絶後の豪華執筆陣だと思います。
ところでみなさま。ラヴレターって、書いたことありますか。
この本の担当者である僕は10代の頃、いまから30年も昔になりますが、告白すれば、それらしきものを書いたことがあります。
でも、あれってラヴレターだったんでしょうかね。好きな人に手紙を書きました。それだけのことだったんじゃないでしょうかね。
自分ひとりで勝手に盛り上がって、好きだという気持ちを正直に伝えることもなく、観念をこねくりまわした文章をつらねて送りつけたのでした。
なにを書いたのか、おぼえてないんですよ。気持ち悪がられるほど、ひどいもんだったでしょ。なによこれ、という感じで。頼むからすぐに捨てちゃってください。人生の記憶から抹殺したい。
切手を貼るときに、昔はちょっと舐めたりしてたじゃないですか。その瞬間が官能的なのだと三島由紀夫が書いているのを、別の作家のエッセイで記憶していたんですよね。そのときの舌の感触だけは、なんとなくおぼえているんです。それだけです。ごめんなさい。気持ち悪いですね。これじゃあ、フラレちゃいますよね。
さてさて、ラヴレターの話でした。
いまは携帯電話とかメールとかラインとか、コミュニケーションのツールが増えましたよね。送られた瞬間に、相手のもとに届く。とても恥ずかしい心が届いてしまう。これは困るんですよ。恐怖と言ってもいいです。
なんというか、時間のためがない。せつなさが盛りあがらないじゃないですか。
そのあたりは、やっぱり手紙がいいのです。ほんとに届くのかな、読んでもらえるのかな、返事とか来ちゃうのか……なんて、幸福な妄想に浸れますもんね。
では、ラヴレターをどうやって書き出すのか。大きな声では言えませんが、この本からパクッちゃえばいいんじゃないでしょうか。
「東京からヴェネチアに向かう途中、ミュンヘンの空港で君とそっくりの人を見つけ、思わず君の名前で呼んでしまった」
作家の島田雅彦さん。さすがです。ラヴレターの教科書というか、まさしく理想的な書き出しだと思います。対象と距離がとれているうえに、どこかゴージャスで切実な感じもある。島田さんはかっこいいし、差出人の外見も重要ということですね。くやしいけど。
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