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上演記 『橋づくし』の渡りかた<特集 生きている三島由紀夫>

上演記 『橋づくし』の渡りかた<特集 生きている三島由紀夫>

文:野上 絹代

文學界12月号

出典 : #文學界

「文學界 12月号」(文藝春秋 編)

『橋づくし』の設定は一九五〇年頃だろうか。陰暦の八月十五日の満月の夜に願掛けのため銀座・築地界隈の七つの橋を渡るという四人の女性――料亭の娘・満佐子、芸妓の小弓とかな子、料亭の女中・みな――の悲喜交交が描かれている。願掛けにはルールがあって、最中は誰とも口をきいてはならず、話しかけられるのもダメ。そして一度通った道は再び通ってはいけないというもの。願掛けのルールに従い、ほとんどのシーンで会話は登場せず、俯瞰からの説明で物語が進む。次々と脱落していく女たちのむき出しの思考が熱く、また滑稽でもあり、反対に満月に照らされた銀座・築地界隈の川縁の情景描写が美しく冷淡でもある。そして、最後は四人の中で一番思考が読めなかったみなが唯一願掛けに成功するという意外なオチだ。読んでる最中から『レター教室』の時に思いついた、各々の心情を踊りにする、というイメージで私の脳内では既に上演が始まっていた。終盤にかけて肉体の躍動がどんどん増し、私の体も共鳴するようにドキドキしていた。また、物語の最初にエピグラフで文楽作品『心中天の網島』の「道行名残の橋づくし」の一節が抜粋されている。「女性の物語にしたい」という願望のあった私は最初のエピグラフで端から胸ぐらを掴まれてしまっていたのだ。

 

この続きは、「文學界」12月号に全文掲載されています。

文學界 12月号

2020年12月号 / 11月7日発売
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